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初恋は遠くにありて想うもの 14

 映画を見終わったころには十一時を回っていた。  俺たちは順番に風呂に入って、それから休むことになった。いちばん最初に風呂に入るのは、レディーファーストでもちろん千夏さんだ。  千夏さんが風呂に入っている間はよかった。すぐ隣に森正がいるからだ。森正なら幽霊だろうが斧を持ったシリアルキラーだろうが、素手素足でぶちのめすだろう。  俺は勇猛果敢な少年ではあるが、幽霊だのシリアルキラーだのとはできることなら戦いたくない。シリアルキラーならまだしも、幽霊とはどうやって戦っていいのか見当すらつかない。  わかっている。幽霊などこの世の中には存在しないし、シリアルキラーは実在するが、武器を片手にこのマンションに飛びこんできたりしない。わかっていても背後だとか、カーテンの透き間だとかに、奴らの気配を感じてしまうのだ。 「シロちゃん、お風呂空いたよ。次、入って。じゃあ、私、先に寝るね。ふたりともおやすみ」  風呂から上がった千夏さんは、リビングルームのドアから顔だけのぞかせた。 「おやすみなさい……」 「おやすみー」  乾ききっていない髪だとか、湯上がりの上気した頬だとかに見蕩れる余裕すらなかった。風呂に入るということは俺ひとりきりになるということだ。いまの俺にはとんでもない無理ゲーである。  いっそのこと風呂に入らずに寝てしまおうかと思ったが、千夏さんに不潔と思われるのは嫌だったし、いくらおっかなくても汗を流してから休みたい。  隣に座ってテレビをザッピングしている森正をちらりとながめる。一緒に風呂に入ろうと誘ったら、森正はどういう反応をするだろう。俺たちはいちおうはそういう関係であるわけで、嫌がりはしないと思うのだが。まあ、小柄という言葉からほど遠い男ふたりが一緒に入るとなると、かなり窮屈そうではある。  思いきって誘ってみようか。いや、でも、待て、待つんだ、俺。  一緒にお風呂に入ろうと誘ったりしたら、ひとりになるのを怖っている――すなわちホラー映画にびびっている、と見ぬかれてしまうかもしれない。  それに部屋にもどったといっても、千夏さんはまだ起きているはずだ。俺と森正がふたり仲良くお風呂に入ったことに気づかれたら、俺たちの冗談みたいな関係がバレてしまわないともかぎらない。 「どうした、シロ。風呂に入んねーの?」  森正はザッピングの手を止めて、俺に訊いてきた。 「入るよ。入るけど……」  さあ、どうする、俺。リスクを冒して森正を風呂に誘うのか、恐怖心を堪えてひとりで風呂に入るのか――

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