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・・・
布団を頭から被って自分にグルグル巻きにして、噴き出すようなフェロモンを何とか押さえつけたくてさ。
閉め切った部屋の中で、どれくらいそうしていたんだか全然分からないくらい、頭の中まで沸騰したようになっちゃってね。
季節が真夏だったから、余計にタチが悪くてさ。
いつに間にか気を失っていてね・・・。
気がついたら、冷たいタオルが頭に乗せられて
心配そうに顔を覗き込む父親と目が合ったんだ。
「蓮斗・・・大丈夫か?」
薄暗くて父親の表情は見えなかったんだけど、いつもの雰囲気と違うことに・・・今思えば、俺はもっと早くに気がつくべきだったんだよな。
「・・・ん。喉、渇いた」
優しく額に張り付いた髪を撫でられ、その手の心地よさに多分俺は・・・。
「待ってろ・・・」
そう言って台所に水を持ちに行こう立ち上がった父の手を咄嗟に掴んで
「行かないで・・・」
俺はそう言って・・・全力で誘惑したんだよ。
――――――
飛鳥は息を潜めて、俺の言葉に耳をかたむけていた。
俺が黙り込むと、ふぅっと息を吐いて寝返りを打つ。リネンの擦れる音がやけに大きく部屋に響いた。
「蓮斗・・・キスしていい?」
俺は答える代わりに、顔をゆっくり飛鳥の方へ向ける。
温かな手が俺の頬を優しく包み、そっと唇に触れるだけの可愛らしいキスをした。
飛鳥の唇がゆっくりと離れ、月明かりの中
見つめ合う。
「父親をさ、布団の中に引っ張り込んで
夢中で貪ったんだよ、俺。なんの知識もない中学生が、大人の・・・しかも父親をさ」
――――――――
仕事が早く終わって帰宅した父親は、たぶん俺の部屋に様子を見にきてΩのフェロモンに当てられちゃったんだろうな。
あの人βだったんだけど・・・Ωの発情ってβにまで影響を及ぼすんだね・・・。
2人で真っ裸になって、破裂しそうな下半身をお互い擦り合いながら・・・ 夢中で抱き合っている時に。
「・・・アンタたち、なにしてんのよ!!」
突然、叩きつけられるように開いた襖の向こうに立っていたんだよ・・・母親が。
あの時の2人の顔、いまだに忘れることが出来ないんだ。
ヒステリックに泣き叫びながら俺を殴りつける母と、ただただ顔面蒼白になって狼狽る父。
まるでスコールのように母の暴力が過ぎ去ったころにはさ。もう家族なんてものは、こっぱみじんに崩壊しちゃってて。
――まあ、俺が壊したようなもんなんだけど。
こどものように声をあげて泣き続ける母と、肩を抱いて一緒に泣きながら必死に慰める父親を見ても
なんか現実感ってのが、全然感じられなくてさ。俺も、声を出して笑っちゃったんだよな。
で、その夜は、後ろ手に両手を縛られて口に猿轡嵌められてさ。
発情してんのに抑制剤なんてもらえないし、まして自分で慰めることもできないじゃん。
閉め切った蒸し暑い部屋の中で必死に身を捩って何とか熱を逃がそうとしたんだけどね。そんなこと、出来るはずも無くてね。
思い出すだけで、軽く地獄。
たぶん俺、あの時から頭・・・おかしくなっちゃったんだと思うよ。
「・・・夢に出てくるのは、その夜の俺なんだ。
焼けつくみたいな下半身を、死んでもいいから、殺されてもいいから触りたいって・・・
一晩中願い続けたあの時の俺を・・・ウリした日は、夢に見るんだよ」
「ねぇ・・・触っていい?蓮斗」
飛鳥が小さな声でささやく。
ほんの一瞬の間を置いて、俺は頷いた。
暗い部屋の中、ゆっくりと向き合って
お互いの体にそっと触れていく。
飛鳥の甘い香りがふわりと湧き立ち、あの日の俺まで包み込んでくれるような気がした。
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