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・・・
・・・どんな、夢か?
ゆっくりと身体を起こし、飛鳥がそっと手渡してくれたミネラルウォーターを一気に飲み干した。
「飛鳥・・・。俺、さ・・・」
「隣り、入っていい?」
俺の返事を待たずに、飛鳥は布団の中に潜り込んで来る。
「・・・あったかい。ねぇ、横になろう?」
ベッドで抱き合って横になると、少しずつ落ち着きを取り戻せたような気がした。
「蓮斗?」
「うん?」
「あのさ・・・俺の質問、答えてくれる?」
・・・あぁ、どんな夢?ってくだりか。
「もし・・・どんな話を聞いても、飛鳥は俺のこと嫌いにならない?」
一瞬の間が開いて、飛鳥が痛いくらいギューッと抱きついてきた。
「何があったって、俺が蓮斗のことを嫌いになるわけないでしょ?」
「・・・うん。だよな」
俺は飛鳥の首筋に顔を埋める。
ふわりと香る甘い綿菓子みたいな匂いが、俺に勇気を与えてくれるような気がしてならなかった。
「俺ね・・・両親がβの家庭に生まれたΩだったんだよね」
――――――――
10歳の時、学校の集団検査でΩだと判った時のことはおそらく一生忘れないだろう。
通知書が届いた時、どうせβだろうとたかを括っていた母は、その封書を開いた瞬間に驚愕のあまりに意識を手放し失神した。
その後、母の様子が心配でまとわりついた俺は、モノの見事に邪険にされて奥の部屋に閉じ込められたっけ。
お腹が空いて、でも襖を開けて母のところに行くのも怖くって。
俺は1人、部屋の隅っこで膝を抱えてただ静かに泣くことしかできなかった。
どれくらい時間が経ったんだろう。
明るかった外はすっかり暗くなって、それでも電気を着けることすらできなくて・・・。
そのうち仕事を終えた父親が帰宅した気配を感じて、何となく襖に近づいた瞬間に、母のヒステリックな声と父の怒鳴り声に、幼かった俺はそれ以上動けなくなった。
・・・きっと俺のせいだ。
俺がΩなんかだって診断されたから、父も母も怒っている。
全部、俺が悪いんだ・・・。
そう思って絶望した。――自分の運命に。
でもそれから何年か発情期も来なくて、世間体だけは普通の家族のように過ごしていたんだけど、どこかよそよそしくて温かみのない家庭だったなぁと、今でも感じている。
そしてさ・・・。
確か、中学2年生の・・・夏休み前、期末テストも終わって半日授業しかない日だったと思う。もうすぐ夏休みだってクラスのみんな浮かれまくっていて、友達も彼女作って海へ行くぞー!なんてはしゃいでいた――確かそんな頃。
その日は何となく朝から怠くって、母に言うと「あらやだ、夏風邪?パート休めないんだからうつさないでちょうだいね」と冷たくあしらわれたんだよな。
手渡された風邪薬を飲んで、どうせ半日だから学校も休んで1人部屋でゴロゴロしている時に、それは急に来たんだよ。
「・・・発情期、か」
小さく呟いた飛鳥の顔をそっと見た。
窓から差し込む月明かりに照らされたその表情からは何も読み取れない。
でも俺を優しく包む飛鳥の甘い匂いが
あの日の俺の傷をそっと癒してくれる。
「飛鳥も、分かるよな。突然胸が締め付けられるような・・・灼熱のマグマのようにドロドロした熱が、身体の奥底から湧き上がって・・・下腹部に流れ込んでいくような・・・そんな感じ」
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