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番外編第8話

 優斗さんの顔が近づいてきて、空中で舌が絡む。  口の中じゃなくて外でっていうのが、なんか……エロい。  甘噛みされて吸われて、身体が震えた。  舌は熱いけど空中だから熱はこもらない。  でも頭ん中は熱くてたまんねー。  あー……もう、そろそろヤバイかも。  薄く目を開けると、綺麗な優斗さんの顔があって、色気垂れ流し状態で下半身に熱が集まっていくのがわかる。  ほんと、ヤバ――。 「はい、終わり」  ぼうっとしてたら舌があっさり離れた。  舌出したまま、物足りなさに少し優斗さんを見つめる。  優斗さんの指が俺の舌をオシマイって感じに優しく口の中に引っ込ませる。 「あとでいっぱいしようね?」  正直ほんと結構キてて、身体中熱くて頭を激しく振って頷いた。  苦笑する優斗さんに頭撫でられて、そんで優斗さんが先に個室から出て人気がないのを確かめてから俺もトイレから出て行った。 「がんばってね」 「うん!」  優斗さんに会えたおかげで一気に充電フルチャージって感じだ!  11時まであと2時間半くらい、がんばるぞって気合入れて会場に戻った。  気合入れ過ぎて、 「休憩中なにかいいことでもあったの?」 なんて美樹さんに言われたりしたけど。  誤魔化し笑いして、指示されるままにあちこちで接客こなしたりしながら忙しなく動きまくって――。 「捺くん」  "ハル"じゃなくて、俺の名前を呼ぶ美樹さんにきょとんとした。  美樹さんは俺を手招きしてから、控室に行きましょうって言って歩き出す。 「どうしたんですか?」  歩きながら訊くと、あっさりとした返事が返ってきた。 「もう上がっていいわよ」 「へ? もう11時ですか」 「まだ9時40分」 「……ん?」  意味わかんねーで首を傾げると、 「このパーティ10時でいったんお開きだから、捺くんはもういいわよ」 って言われてまたぽかんとした。 「え、でも。俺11時までって羽純ちゃんから聞いてたんですけど」 「ああそれサプライズだって」 「……サプライズ!?」 「思いがけず早く帰れたら嬉しいでしょう、って羽純ちゃんが言ってたわよ。それにもともと私も9時くらいまでのつもりだったしね。遅くなっちゃってごめんなさいね」  美樹さんはそう言ってから「今日はありがとう」って頭を下げた。  今度こそびっくりして俺も慌てて頭を下げる。 「え、いや、別にたいしたことしてないです」 「ううん、助かったわぁ。捺くんが高校生じゃなかったらうちのお店にスカウトしたいくらい」 「そんなー」  ……ていうか、高校生とかいうまえに男ですから……。 「ほんと、捺くんならすぐに№1になれるから、いつでも来てね!?」 「……はーい」  とりあえず笑顔で頷いておくことにした。  それから控室について、美樹さんは俺に今日のバイト代をくれた。 「少ないけど受け取ってね。あと、これ捺くんの着替えね。いま着ているのは置いていって構わないから」  そう言って渡されたのは白くてでっかい紙袋。  美容室で着替えた俺の私服が入ってるんだろうと受け取って礼言って。  最後に挨拶交わして、一応美樹ママの名刺貰ってから別れた。  控室に一人になって紙袋漁るとケータイ見つかって、即行で優斗さんに電話をかけて、もうバイトが終わったことを連絡。  優斗さんはホテルから出てるらしくって、でも近くにいるからすぐにロビーに来るって言ってくれた。 「じゃああとでね」  めちゃくちゃ声弾んで、電話を切って、また紙袋を漁って洋服を取り出す。  取り……出す。  数秒後、俺は「なんじゃこりゃー!!!」と、叫んでいた。  あー……変じゃねーかなぁ。  一応鏡でチェックはしてきたけど、自分で言うのもなんだけど似合ってたけど。  ――俺の洋服はどこへ。中身は女物の服だった……。  羽純ちゃんには連絡とれねーし、美樹さんからはそれしかないと言われて紙袋に入っていた洋服を仕方なくきた。  ようやく窮屈なドレスから解放されるとおもったのに!!  でもブラジャーと胸パッドだけは外したけど、きついから。  可愛い感じのフリルつきのブラウスにミニスカにファーコートにニーハイに……って、絶対寒いだろ!!!?  と、俺は思う。  だってミニスカ過ぎて脚スースーするし!  コートいまは暖かいけど外でも効能あんのか!?  絶対寒いと思う……。  んなこと思いながら優斗さんを待たせるわけにはいかないから女装のままロビーに向かった。  優斗さんはもう待っててすぐに俺に気づいてくれた。  黒のコート着てて、それがまたカッコイイ!  駆け寄る俺に近づいてきてくれた優斗さんは俺の姿を上から下に見て首を傾げた。 「まだ女の子モードなんだ?」 「……羽純ちゃんにはめられた」  口尖らせて言うと優斗さんは笑って俺の手を取った。  繋がれた手にちょっと慌てる。 「優斗さん!?」  だって俺達男同士だし、手繋いだりとかマズイんじゃねーのか。  困惑する俺に優斗さんは繋いだ手を優斗さんのコートのポケットに入れると歩き出した。  俺も一緒に歩き出すわけで。 「平気だよ、いま捺くんは女の子の格好してるんだから」  って笑いかけてきた。  言われてハッとして、自分見下ろしてそして優斗さん見て、一気に顔が緩むのを感じる。 「優斗さん」 「なに?」 「俺って可愛い?」  上目遣いで訊いてみる。 「すごく可愛いよ」 「おっしゃ!」 「捺くん、一応女の子だから」  思わずガッツポーズした俺に、からかうように優斗さんが言ってきて俺もニヤケながら頷いた。  ホテルを出て、イルミネーションに彩られた街並みを歩く。  正直やっぱミニスカのせいですっげぇ寒いけど、優斗さんと手を繋いで歩いてるっていうだけでほくほくする。  冷たい夜風も気にならなかった。 「どうする、どこか行く?」 「そうだなー」  行く気満々だったけど、低めのとはいっても慣れないパンプス履いてすっげぇ疲れてるからゆっくり座りたい気分もする。  でもぶらぶらしたい気もするし。  うーん、って唸ってたらポケットの中で繋いだ手がぎゅっと握られた。 「実はね」 「うん?」 「ここから10分ほど歩いたところにあるホテルに部屋取ってるんだけど、どうですか?」  首を傾げて優斗さんが俺の顔を覗き込む。  そしてかざされたのはカードキー。 「チェックインはもうしてるから、どこか行きたいなら行ってからでもいいし。疲れてるならとりあえず今日はホテルで休む?」  優斗さんの言葉に呆けてた俺は、だんだん意味を理解していって――叫んだ。 「行く、ホテル、行く! ホテル!」 「……捺くん」  苦笑する優斗さんと、クリスマスイブの夜で人も多いから通り過ぎたカップルにクスクス笑われて、ハッとして顔が熱くなる。  でもショーウィンドウに映る俺と優斗さんはどっからどう見ても男女のカップルだし、まわりにどう思われてもいいし。  だから―― 「早くホテル行こ?」  おねだり笑顔と、そんでもって触れるだけのキスを素早く優斗さんにしてみた。  優斗さんは一瞬ちょっと驚いた見ただけどすぐに微笑んで頷いてくれた。

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