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第1話

 キーボードのENTERボタンを押す手が震える。 「こ、これで・・・・・・いよいよ、完成・・・・・・」   小気味良い音で叩かれたENTERとともに、パソコンのモニターには 《完了》 の二文字が表示される。 「……ふ……ふふ……ついに、やったぞ……これで、とうとう……」  長かった。着想に一年、開発に二年を費やしたが、とうとう完成した!!  それが、この『放課後BOYS~ヌけないBLゲーなんて、BLゲーじゃねえ!~』だ!! 「待ってろよ~!茅ヶ崎 眞也!これでお前をヒンヒン言わせてやるからなぁ!!!」  フハハハと高笑いを研究室中に響かせながら、僕は勝利の予感に身を震わせた。   *** 『放課後の校舎の中、校庭からは部活動に励む生徒達の掛け声が聞こえてくる。誰もいなくなったはずの三年生の教室に、一人佇む影があった。  それが俺、化学教師のーーー入力してくださいーーー』 「おぉ、えっと、なんだこれ?入力?名前か。ち、が、さ、き、し、ん、や……と」 『そう、茅ヶ崎 眞也だ』 「うわ〜、すごいな。これ何処から聞こえんだろ?」  ふふふ、ついに来たな、茅ヶ崎眞也。飛んで火に入る夏の虫とはこの事だ。  身長189cm、体重73キロ、背が高く腰高で、肩幅もあり、服の上からでも均整な筋肉が見て取れる。はっきりとした顔立ちに、整った唇の横に黒子が一つあるのがたまらなくセクシーだ。  この歩くセックスシンボルのような男に、なんと僕は酷い言葉を浴びせられてフラれた事がある。小さい頃から日本人形みたいねって褒められた黒髪サラサラストレートの美少年とご近所でも噂されていたこの僕をだ!!  だからこれは復讐なのだ。茅ヶ崎がバイト先のコンビニで女除けの為にゲイとカミングアウトしているのは、すでにリサーチ済みだ。なので、同僚にバーチャルリアリティのBLゲーの体験会に誘わせたのは造作もない事なのである。  このバーチャルリアリティの凄いところは、ボックスに全身入る事ですべての五感をシャットダウンして、ゲームの世界にそのまま繋げている。ゲームの世界にそのまま入っているも同然の革命的BLゲームだ。僕は天才だったが、流石にこれを作るには三年かかった。  だが、ついに僕の念願叶う日がやってきた!これで、お前を僕の前にひれ伏させてやる!! 「先生、どうしたんですか?」  僕は教室のドアを開けて中に入る。 「ん?お前は??」 「やだな、寝ぼけてるんですか?三年三組ののクラス委員長ですよ。」  そう!今の僕は黒い詰め襟の学生服に銀縁眼鏡という、男なら一回は精液をぶっかけたい衣装を装着済みなのだ!(※個人の見解です)しかも、僕はとても可愛い! しかし、茅ヶ崎の白衣姿……思った以上にかっこいいな。足が長いから白衣の裾が短く感じるのが果てしなくいい。……いや、違う。僕の本来の目的を思い出すのだ。そう!  お察しの通り僕の復讐とは、このゲームに入り込み、茅ヶ崎眞也に告白させる!そして、こっぴどく振ってやる!!という残忍かつ狡猾、そして完璧な復讐だ!!! 僕は茅ヶ崎に向かってニコリと笑った。だが、肝心の茅ヶ崎の反応はーー。 「あ、そう?」  なんだか、気の抜けた返事だな~。こいつ、BLゲーやった事がないのか?出会いの場面はいつだってドラマチックじゃなきゃいけないのに。仕方ない、こんな事もあろうかと、雰囲気の出そうな選択肢を用意してあるのだ。 「せ、先生……あの……先生だけに、相談したい事があって……」  瞳を潤ませて、袖をギュッと掴みながら口元に持っていく。可愛い僕にしか出来ない芸当だ。 「ん?なんだこれ?選択肢?  A・相談に乗る  B・相談に乗らない」  ふ、これでBを選ぶ奴なんて、ゲームのなんたるかを分かっていない相当な阿呆しかいない。 「めんどいからBでいいや」 「このど阿呆が!!!!」  僕は舌打ちをしながらポケットに入れていた、強制リセットボタンを連打した。なんて事だ!茅ヶ崎はゲームというものの常識を全く持ち合わせていない!!    *** 『放課後の校舎の中、校庭からは部活動に励む生徒達の掛け声が聞こえてくる。誰もいなくなったはずの三年生の教室に、一人佇む影があった。  それが俺、化学教師のーーー入力してくださいーーー』 「え~、またコレやんの??面倒だなあ~、しんや でいいや」 『そう、しんや だ』  幼稚園生か!!

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