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第2話
まあ、いい。兎に角ゲームを進める事が重要だ。
「先生、どうしたんですか?」
僕はやや乱暴に教室のドアを開ける。
「おwww委員長登場wwwwww」
ちょっと待て。茅ヶ崎、貴様もしやゲーム中、誰か死んでも『死んだwww』とか冷やかしながらプレイする最もゲームクリエイターが忌むべき人種か?
「やだな、寝ぼけてるんですか!?三年三組のクラス委員長ですよ!!」
「だな~www」
ややつっけんどんに言った僕に、茅ヶ崎が半笑いで答える。そうだ、こいつ僕をこっぴどく振った時もこんな感じの半笑いだった。本当に空気が読めない男だ。性格も最悪だし、いいのは顔だけだ。だがその顔が圧倒的にいいのが腹立たしい。
「で、なんだっけ?悩み、とかだっけ??」
馬鹿野郎。貴様はここでセーブしてないだろうが。僕の台詞を飛ばすな。感も悪い男だ。つくづく顔だけがいいのが憎々しい。
今も教卓に寄りかかって、後ろに両肘をつくキザなポーズをとりながら、僕の方を半笑いで見てくるのだ。……本当にかっこいい……。
「…あ!あの……そう!先生に、相談したい事があって……」
『A・相談に乗る
B・相談に乗らない』
いかんいかん。職務を全うせねば。悪魔の美しさに囚われている場合ではない。
もうさっさと選択肢を出させる。わかっているだろうなぁ、茅ヶ崎…。流石にもう分かっているだろうなあ!?
「さっきBでゲームオーバーだったもんね。今度はAかな?」
よし!僕は思わずガッツポーズをする。
「先生…ありがとうございます……」
思わず素で目が潤んでしまう。ようやくゲームが進むのだ。まだ共通ルート40の選択肢の中の一つ目だが・・・・・・。
「先生、実は・・・・・・」
「で、なんで由羽先輩は、そんな格好してるんです?w」
「・・・・・・ハ??」
僕の心臓が嫌な音を立てる。
「いや、だから由羽先輩ですよねwそんな学ランなんて着ちゃって……大学卒業してから三年たってるから、先輩確か今年で2〇歳…・」
「う」
「う?」
「うわあぁぁぁぁぁぁぁ!!!言うなあぁぁぁぁ!!!」
恥ずかしい恥ずかしい恥ずかしい恥ずかしい!!なんで!?なんで知ってるの!?
「ななななんで!?え!?なんで、知って!?」
「いや、覚えてますよ。普通に。あんた、頭良くて美人だけど、残念な変人がいるって大学でも有名でしたもん」
「そこは個性的な才色兼備と言ってくれ!!」
「その変人が、大学やめた後も企業のっとって変なバーチャルゲーム作ってるって、噂でしたよ。うちのゼミの教授なんて、才能の持ち腐れって泣いてましたもん。そしたらうちの大学の卒業生が作った18禁BLゲームの体験会があるって言うから絶対あんただな、と思って来てみれば…まさか本人登場とは思いませんでした」
相変わらずハチャメチャですね、あんた。と、茅ヶ崎は喉の奥で笑っている。
なんてこった!!僕が美しいばかりにそんな噂されていたとはっ!!
「ま、まさか……ぼ、僕の事…覚えてるのか……?」
恐る恐る聞くと、ああ、と軽い感じで相づちを打たれた。
「一回だけ、食堂で話しましたよね」
「っ!そ、そうだ!!覚えてるんだな!?」
では、あの時自分が言った酷い言葉も覚えているのか!?
「覚えてますよ。言っときますけど、俺、結構あれトラウマだったんで」
「トラウマ!?」
トラウマと言ったか!?思わず心の声が声に出てしまった事も気付かず、僕は殆ど悲鳴のような叫び声をあげた。
「ト、トラウマという言葉の意味を知っていて言っているのか!?心理的に大きな打撃を与え、その影響がいつまでも残るようなショックや体験。心的外傷。精神的外傷。の事を言うのだ!!お前が僕にしたようにな!!」
「俺?俺があんたになんかしたっていうんですか?」
怪訝な顔で訊ねてくる茅ヶ崎は、全く身に覚えがないといった態度だ。僕はその姿に堪忍袋の緒がプツンと切れてしまった。
「やっぱり覚えてないんだな!!最低だ!!お前はっ!!この僕を酷い言葉で振ったじゃないかっ!!」
「は?なに言ってるんですか??どっちかっつーと、あんたが俺の誘い断って…いや、酷い言葉って、なんですか?」
いつもより低い声で聞いてきた茅ヶ崎がどんどん近寄ってきて、僕を教室のドアまで追い詰めた。
「と……」
「と……?」
いまや僕はドアに手をついた茅ヶ崎の腕の中に閉じ込められた形になってしまった。あまりの事態に動転して僕は思わず真実を口にしてしまう。
「年下にしか興味ないって言った!!」
「はあああああ????」
ずっと怖い顔で睨んでいた茅ヶ崎が、呆気にとられた顔で間の抜けた声を出す。それに調子を取り戻して、僕はとうとう茅ヶ崎を断罪する事にした。
「食堂で、好みのタイプは?って聞いた僕に、年下にしか興味がないって言った!!」
「はぁ!?そんな事ぜってぇ言ってねえし。むしろ食事に誘ったのをあんたが断ったんだろうが。俺、誘い断られたことなんて生まれてこのかた一回もなかったから地味に傷ついたんですけど」
「う、嘘だ!!お前は、これからラーメン食べに行くんですけど・・・・・・って言っただけだ!!邪魔だからどっか行けって感じだった!!この美少年の僕にラーメンなんて似合わないって感じだった!!」
「ちょっと何言ってるか、分かんねーし、実際あんたラーメン好きだろうが。『ポンポコラーメン』の鶏ガラ豚骨ラーメン年中食ってただろうが」
「え……!?な、なんで知って!?」
「俺もあそこよく行ったから。なんかコソコソしてたから声かけた事なかったけど、あんたがそのちっちぇ体で大盛り食べるの見るの結構好きだったんだわ俺」
「う……」
実際、そこのラーメン屋にはよく行っていた。というか、茅ヶ崎の後を密かにつけていった結果なので、実際は茅ヶ崎がよく通っていたのが正解なのだが。ついでに頼んだラーメンは意外にもとても美味しくて夢中になって食べてしまったが、まさか見られていたとは……。
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