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12 告白(2) ~アオイ~

ちょうど肩に波がかかる高さまで来た。 波が来るたびに体がふあっと持ち上がる。 でも大丈夫。 海中では、密かにリュウジと手を繋いでいるのだ。 「気持ちいいなぁ……」 思いが自然に言葉となって出て行く。 本当に気持ちがいい。 「……なぁ、リュウジ?」 リュウジから返事が戻って来ない。 オレはどうしたのかと、リュウジの方を向いた。 すると、リュウジはかしこまった面持ちでオレを見ている。 「どうしたんだ? リュウジ……」 オレがそう問い掛けると、リュウジは口を開いた。 「なぁ、アオイ。俺さ、正直な気持ちを言うよ」 「ん? なんだ? 突然」 オレは咄嗟に身構える。 正直な気持ちって……。 まさか、オレを嫌いになったって言うんじゃないだろうな……。 まさか、親友をやめたいとか……。 猛烈な不安が押し寄せる。 リュウジは続けた。 「俺、お前のことが好きなんだ」 一瞬の間があった。 リュウジの真剣な眼差しがオレに向けられる。 オレは、ホッとして肩の力を抜いた。 そうだよな。 今更嫌いは無いよな。 オレは安心して答えた。 「ああ、オレもリュウジが好きだぞ!」 「ちげぇよ! 愛してるの好きだ!」 「オレも、愛してるなリュウジ!」 「ぶっ! 違うって」 「ん? なんだ?」 リュウジは何かとても興奮している。 一体何をそんなにムキになっているのか、さっぱり分からない。 オレは首を傾げた。 リュウジは、はぁー、っと深いため息をついた。 「アオイ、お前、愛してるって、意味分かっているか?」 「ん? 多分な。大好きってことだろ?」 「分かってないな……まさか、お前、もしかして恋したことないとか?」 「恋かぁ……まぁ、あるんじゃないか? 多分……」 恋と聞いて思い当たるエピソードはアレだ。 オレは、顎を突き出して言った。 「幼稚園の頃、保育士さんにドキドキしてた気がする。よくは覚えて無いが、あれは恋だったな。うん」 リュウジはガクッと肩を落とした。 「はぁ……力が抜けるぜ。渾身の告白だったのによ」 「えっ? オレのせいか?」 「そうだよ!」 オレは、リュウジの言い草に腹が立った。 リュウジは、オレを馬鹿にし過ぎだ。 それに、愛だの恋だの、そんなものは親友という至高の関係の前では些末な事。 大事なのは心を通わす信頼と尊敬の念。 お互いを高め合う者同士の熱き友情。 それで何が不満なのか? オレは、リュウジに言い返す。 「なんだよ。オレもお前が好きだ。それでいいじゃないか。親友!」 「やっぱりな。いいか? 俺がお前を好きなのは、そうじゃなくて、アオイのすべてを俺の物にしたいって、ことなの。分かるか?」 「んー? それは当たり前だろ。オレもリュウジのすべて欲しいな」 そんなのは、考えるまでも無い。 親友なのだから相手を独占したいっていうのは当然の欲求。 「……じゃあさ、俺はアオイとキスがしたい。お前は?」 「オレか? 俺もそうだな。リュウジとキスしてみたいな」 「へっ!?」 リュウジは、オレの答えに口をあんぐりと開けた。 もっと、別の答えを予想していたようだ。 何だ? キスくらいで大袈裟な。 「うぉー! よっしゃー!」 リュウジは、拳を振り挙げてそう叫ぶと、そのままその手を下ろし、海面をバッシャ、バッシャっと叩き始めた。 子供のような喜びようだ。 オレは、顔に手を当ててしぶきを防ぐ。 「やっ、やめろって……顔にかかるだろ!」 「あはは! アオイ、それが恋ってことなんだよ。よしよし、俺とアオイは両想いってことじゃないか」 リュウジは、オレの両手をギュッと握り締めて目を輝かせる。 オレは、全くリュウジのテンションについていけないでいる。 オレは、リュウジに問い掛けた。 「なぁ、リュウジ。これが恋って本当か? オレは親友だからだと思っていたが……」 「バカだなぁ。キスしたいんだったら、恋ってことさ!」 「へぇ。そうなんだ……」 恋……そんなものなのか? オレは、まだ釈然としていない。 そんな中でリュウジは提案してきた。 「な! アオイ。俺達、付き合おうぜ!」 「付き合うか……よく分からないけど、いいぜ。リュウジとなら……」 オレが最後まで言い切る前に、リュウジはオレに飛びついてきた。 オレは、リュウジのハグが苦しくて悲鳴を上げる。 「おいおい、痛いって、そんなに強く抱きしめるなよ!」 「バカ! こんなに嬉しいんだからいいだろ!」 「まったく……リュウジは……」 オレはリュウジの耳元で呟いた。 でも、オレは胸が張り裂けそうなくらい、ドキドキしている。 体が嬉しがっている。 だから、今はこのままリュウジの望むままにしてやろう。 そう思っていた。 オレは家のベッドにゴロッと転がった。 今日一日を振り返える。 結局、帰り際にリュウジは、 「なぁ、アオイ。大事な事を忘れていたぜ……ほら、き、キスするぞ!」 と、顔を真っ赤にして言ってきた。 クスッ。 リュウジって可愛いよな。 相当、キスしたかったに違いない。 その後、オレがいいぜ、と唇を突き出すと直ぐに唇が合わさった。 リュウジの柔らかい唇の感触。 何か特別なものがリュウジから伝わってきた。 そんな感覚があった。 そっと、自分の指で唇に触れる。 今でも唇が覚えている。 リュウジの唇を……。 「キスっていいよな……」 オレは、いつの間にか、ひとりニヤニヤしている自分に気がついた。 「ふふふ……」 オレは、誰かに見られている訳でも無いのに照れ笑いをして目を閉じた。 でも、やっぱりしっくりときていない事がある。 確かにリュウジとキスしたい感情は本物だ。 リュウジはこの感情は恋だと言った。 それに、リュウジは、オレに恋しているって言った。 しかし、オレは本当にリュウジに恋をしているのだろうか? うーん。よくわからない。 親友と何が違うのだろう? オレは、ゴロッと寝返りを打った。 「だめだ、考えても分からない!」 オレは考えるのをやめた。 どっちでもいいでは無いか。 何故なら、これからは遠慮する事なくキス出来るって事なのだから。 「あー、早速、キスしたいなぁ……」 思わず口から飛び出す。 その時、部屋の外から声がかかった。 「アオイちゃん、お風呂次どうぞ!」 三女のハル姉の声だ。 オレは、時計の針を見て小一時間リュウジの事を考えていた事を知って飛び起きた。 オレは慌てて返事した。 「はーい! すぐに入る!」 オレはいそいそと着替えのパジャマを持って部屋を出た。

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