25 / 27

25 愛と友情(3) ~リュウジ~

俺は祈るような気持ちで階段を駆け上がった。 頼む、アオイ。そこに居てくれ。 息を切らせてアジサイ公園の入り口に入ると、一人の女性の後ろ姿が見えた。 街が見渡せるように設置された東屋とそのベンチ。 その女性は、そこでぼぉっと街を眺めていた。 後ろ姿だけどちゃんと分かる。間違いない。アオイだ。 俺はホッとして、アオイに近づいた。 「はぁ、はぁ。アオイ。探したぞ」 俺が声を掛けると、アオイは、はっとして俺の方を見た。 驚きの顔。 それと同時に、目には涙を浮かべていた。 泣いていたのか? アオイは、すぐに目に溜めた涙を指で拭った。 そして、俺には目を合わせずに言った。 「……なんで来たんだよ。リュウジ」 久しぶりに聞くアオイの声。 なにか、懐かしい。 そして、そんな一言だけど、俺の胸は嬉しさでいっぱいになった。 よかった。 また会えて。 俺は、アオイの横に座った。 そして、前を向いたままアオイに声を掛けた。 「お姉さんに聞いたよ……」 沈黙。 アオイは俯いた。 足元の小石がポーンと蹴りだされた。 「そっか……全部か?」 「ああ、ごめんな。俺、お前を傷つけた」 アオイの横顔はいつもと変わらない。 前をじっと見据えている。 何を考えているのだろう? アオイは、答える。 「ううん。リュウジ、お前は悪くないよ……オレがダメだっただけ」 「なっ、だから……」 「オレ、『あたし』にもどるよ」 アオイの言葉に俺の頭の中は真っ白になった。 あたしにもどる? なんだ? こいつは何を言っているんだ? 俺はアオイの両肩を掴み体をゆすった。 「どういうことだよ、アオイ!」 「……痛いって」 「ごめん、悪かった。アオイが変な事を言うからさ……」 俺はアオイの言葉を待った。 アオイは口を開いた。 「また女子校にもどるんだ……」 くっ……何て事だ。 しかし、俺は薄々は気付いていた。 もしかしたら、アオイは転校してしまうのではないか、って。 気付いていたが、気付かないようにしていた。 気のせいであってくれればいい。 そんな風に思っていたからだ。 しかし、蓋を開けてみれば、大当たり。 最悪のシナリオじゃないか。 俺は、目を閉じた。 女に戻るアオイ。 きっと、女子の制服を纏い、それは可愛い姿なのだろう。 しかし、それはもう、今のアオイとは別人。 俺のアオイとは……。 二人で、はしゃぎ、笑い、キスをし、愛し合い、そんな、二人で共有した時間にいたアオイはこの世界からいなくなる。 体が震える。 涙が出てくる。 ははは……確かに最後。 お姉さんが言っていた『最後』ってこういう事かよ……。 目に前がゆらゆらと揺れだすのを振り払うように声を出した。 「だ、だめだ。アオイ。いくな!」 「……いいよ。オレさ、リュウジと一緒にいられてすごく楽しかった。ありがとう」 アオイは、満面な笑みを作った。 な、なんだよ。その顔。 ぜんぜん、笑ってねぇぞ。泣いているじゃないか。 お前だって、辛そうじゃねぇか。 胸が締め付けられて痛い。 俺と同じようにアオイも心を痛めているのだ。 それなのに、このまま別れて言い訳ないじゃないか。 俺は拳をギュッと握った。 「アオイ、お前! ふ、ふざけんな!」 俺の突然の言葉にアオイは、体をビクンと震わせた。 「全然、ありがとう、じゃねぇ! お礼なんて言うんじゃねぇよ!」 驚いた顔で俺を見るアオイ。 しばらくして、柔らかい表情になった。 「なんだよ……アオイ」 アオイは、ふふふ、と笑った。 そして、手を振る。 頬に涙がつーっと垂れた。 「バイバイ!」 アオイは、立ち上がった。 あっ……ダメだ。糸が切れる。 切ってはダメだ。 「おい、アオイ。何処にも行くなよ!」 俺は、瞬時にアオイの手首を掴む。 「放せよ、リュウジ。このまま綺麗にお別れしよう……」 「アオイ。聞いてくれ! 頼むから!」 アオイは、俺の顔を見た。 俺の真剣さは伝わったのだろうか。 アオイは、もう一度ベンチに座った。 俺は気持ちの整理をした。 今、何を話すべきか。 俺の気持ちをどう伝えるべきか。 アオイに何を知ってもらうべきか。 そして、頭の中でそれらをまとめると、ああ、簡単なことだな、と思った。 俺は、よし!と口にする。 「なぁ、アオイ。俺の話を聞いてくれ。それでも気にくわなければお前の好きにすればいいさ」

ともだちにシェアしよう!