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26 愛と友情(4) ~リュウジ~

「アオイ。お前は女として周りから見られていたことに失望した。だよな?」 アオイは、無言のまま、コクリと頷いた。 俺は、それを確認して話を続ける。 「いいか、俺以外の奴らはそう思ったかもしれない。しかしな、奴らだって悪気はないんだ……」 そうなのだ。 確かにアオイは可愛い。 それは万人が認める事。 だから、仕方がない事なんだ。 でも、俺は違う。アオイを男として認めている。男のお前だから俺は恋をした。 これを伝えるよりしかたない。 誰が何と言おうと俺だけはアオイを男だと思っている。それでいいじゃないか? と。 俺が、さぁ説得するぞ、と話を組み立てていると、アオイが口を挟んだ。 「ちょ、ちょっと待て。リュウジ。『俺』以外ってどういう意味だ?」 「えっ? どういう意味って……そのままだが」 「お前な……お前だって、オレの事を女扱いしてたじゃないか! 女以上に可愛いとかぬかすし、オレに女のエロい下着を着させようとしただろ!」 アオイは怒鳴る。 俺は意味がわからずポカンとした。 ん? あれ? 俺の中でほつれた糸が再び絡みだす。 おかしい。 何かおかしいぞ? もしかして、アオイが失望しているのは俺の事か? 心の中でサッと光が差し込んだ。 思わずため息が出る。 なんだよ……そういう事かよ。 俺は怒りで興奮するアオイに肩に手を置いた。 「アオイ。お前、もしかして勘違いしているな」 「何をだ?」 キッとして俺を睨むアオイ。 俺は冷静に言った。 「俺、お前の事は一度たりとも、女何て思った事はないが……」 「はぁあ? て、てめぇ! 何を言っているんだリュウジ! そんな事はないだろ! オレが女のようだからセックスした。付き合う事にした。親友になった……友達になった……声を掛けた……そうだろ? うっ、うう……」 アオイは始めこそ凄い剣幕だったが、最後は泣き声に変わっていた。 俺は、慰めるように話し掛ける。 「アオイ、何を言っているんだ。俺とアオイは男友達で親友。そして、男同士で愛し合う恋仲。これのどこに女の要素があるんだよ」 「嘘を言うな! でも、いいんだ……リュウジ。リュウジは、オレみたいな女の出来損ないを好きになる必要なんてないんだ……」 アオイは、泣き崩れた。 俺はアオイを胸に抱きたい衝動を抑え、頬に手を添えた。 「だから、誤解だって……」 「まだ、そんな事を言っているのかよ! じゃあ、それが誤解だって説明できるのかよ!」 アオイの問いかけに俺は後ずさりした。 説明だと……。 やばい。 ついにあの事をばらさないといけない。のか? そもそも、アオイには当然バレていたと思っていた。 しかし、これまでのやり取りから、アオイは全く知らなかったってことになる。 まったくアオイは世間知らずというか、箱入り娘っぷりには困る。 いや、箱入り息子か……。 それなら、簡単にさらっと伝えればいい事なのだが、本人を前にそれを敢えて口にするのは、非常に恥ずかしい。 何故だか、恥ずかしい。 告白をした時だって、こんなに恥ずかしくなかったのにだ。 が、それを言わないとアオイは納得してくれないだろう。 俺は、観念して「わかったよ。言うよ」と答えた。 しかし、なかなか口から言葉が出て行かない。 なんという羞恥プレイ……。 アオイは腕を組み、指を小刻みに揺する。 「何か言えよ!」 アオイは、やっぱり出まかせなんだろ? と言わんばかりに回答を促してくる。 「……ちょっと待て、勇気がいるんだ……」 「は?」 とうとう、年貢の納め時か……。 よし。 いまさら恥ずかしがっても仕方ない。 しかも、相手はアオイだ。 俺も男だ。覚悟を決めるしかない。 俺は勇気を振り絞って声に出した。 「オホン……実は、俺は、オトコの娘が大好きなんだ!」 やばい……。 口にしただけで、猛烈な羞恥心が襲う。 体中の血液が沸騰し汗が滴り落ちる。 はぁ、はぁ。 動悸息切れがする。 体中が熱くて火を噴きそうだ。 俺は恐る恐るアオイの表情を伺った。 アオイはポカンとしている。 でも、分かるぞ。 すぐに、ぷぅーっと吹き出して大笑い。 ずっと、これをネタにからかわれ続けるに違いない。 でも、背に腹は代えられないのだ。 アオイを失うかどうかの瀬戸際なのだから。 俺は照れ隠しに、頭に手を置いて空口笛を吹いた。 「ひゅ、ひゅ、ひゅ。あーあ、言ってしまった……恥ずい……アオイの顔をまともに見れないぜ。あははは」 「……」 手でうちわのように仰ぐ。 ぜんぜん、汗は引かない。 「……ふーっ。熱い、熱い」 「……」 恥ずかしくて、やたら口数が増える俺。 しかし、無反応のアオイが気になって仕方ない。 まぁ、いい。 この場を早く立ち去る。 そして、この黒歴史はすぐに封印する。 それでいい。 俺は、アオイの手を取った。 「という訳さ。な? 誤解は解けただろ? 帰るぞ。アオイ!」 しかし、アオイは手を引っ込めて抵抗した。 そして真顔で言った。 「おい、なんだ。オトコの娘って?」 「へ? 知らないの?」 アオイは、コクリと頷く。 は!? オトコの娘を知らないだと!? 俺は、ついに恥ずかしさの境地にたどり着く。 この羞恥心に悶え苦しんだ一連の戦いが、独り相撲だっただと!? 行き場のない気持ちが怒りとなって噴出す。 ようは八つ当たりだ。 「アオイ! て、てめぇ、よくも俺に恥かかせてそんな……」 「あはは。何だかよく分からないが、リュウジ。お前、顔真っ赤だぞ。あははは」 えっ? そこには、ぷっーっと吹き出したアオイの顔。 ああ……アオイが笑っている。 なんていい笑顔。 何が、そんなに楽しいんだ? 俺は他人事のように、ころころ笑うアオイの顔を観察していた。 そこで、ふと気が付いた。 あれ? こんなアオイの笑顔を見るのはいつ以来だっけ? そんな風に思って、一気に心が洗われるのを感じた。 いままで、俺は何を怒っていたのだろうか? 気持ちが落ち着き、心が休まっていく。 やはり、俺にはアオイの笑顔が必要なんだ。 俺はそう思い一人納得した。 ところで、あまりにも大笑いするアオイ。 俺は、釣られて笑いながらもツッコミを入れた。 「……おい、アオイ。笑いすぎだぞ」 「ふふふ。悪い、悪い。で、オトコの娘ってなんだ?」 「それはな、見た目は女の子でな」 「うん」 「中身は、おチンチンがついていて胸ぺったんな男の事だ……」 自分で言ってやはり恥ずかしい。 しかし、アオイは意にも返さず問い返してくる。 「へぇ。つまり、お前は女じゃなく男が好きなわけ?」 「なっ、何言っているんだよ。オトコの娘なんだから当たり前だろ? あー。堪らない。だってよ、可愛いのに男なんだぞ。男なのに可愛いんだぞ? やべぇ、興奮する」 つい、体をギュッと抱く仕草をして、はっとした。 やばっ……俺の悪い癖。 つい興奮して余計なまねを……。 しまったと思って、アオイの顔をチラッと見た。 すると、アオイはまたしても吹き出す寸前の笑顔。 くっ……。 まぁ、いいぜ。今日は、その笑顔に免じてピエロになってやる。 アオイは、笑いながら言った。 「ぷっぷぷ。お前、すごいエロい顔になっているぞ。あははは。それにしても、お前は、変わったのが好みなんだな」 「はぁ? お前、分かっていて言っているのか? アオイ、お前が、オトコの娘なんだよ!」 「オレの事か? オトコの娘って」 アオイは、自分を指さし、素で驚いた顔をした。 俺は、無言でコクリと頷いた。 アオイは、人差し指を自分の顎に当てて考えを問う。 「つまり、お前はオトコの娘が好きで、オレはオトコの娘で、お前はオレが好きって事?」 「うむ」 「な、な、な。じゃあ、リュウジは、男のオレを好きになったって事?」 「うむ」 アオイはようやく気が付いたようだ。 俺はアオイの目まぐるしく変わる表情を愛おしく見つめる。 アオイは、いろいろな気付きを得るたびに、目をキラキラさせるのだ。 「そ、そうなのか。男のオレを……じゃあ、ちょっとまて。男同士の親友っていうのは?」 「そんなの、あたり前だろ? 男同士なんだから」 「はぁ……そんなぁ。そうだったのか……」 アオイから張りつめていたものがスッと消えたように感じた。 「ははは。だから、誤解っていっただろ? まったく、アオイはよ」 俺はアオイの頭をポンポンと撫でてやる。 ほら、笑顔を見せろよ。 そして、俺を幸せにしてくれ。俺のアオイ……。 そんな俺の期待とは裏腹に、アオイは急に下を向いた。 黙ったままじっとしている。 アオイのその様子に、焦りを感じた。 誤解は解けたんじゃないのか? まだ、怒っているのか? 「どうした? アオイ……」 アオイの肩に手をかけようとした。 と、そのとき、アオイの足元にポタリと水滴が垂れた。 えっ、なんだ? 直ぐにアオイの嗚咽が耳に入った。 「うっ、うう……うう」 俺は覗き込むようにアオイを見る。 「……泣いているのか?」 俺の言葉にアオイは顔を上げた。 目には大粒の涙。 それが、ぽろぽろと溢れ出す。 訴えかけるような目。 口は何か言おうと小刻みに震える。 ああ、どうして、そんな顔をしている? そんな悲しい顔を……。 やめてくれ。アオイ。 俺にそんな顔を見せないでくれ……。 胸が締め付けられて、いたたまれない。 俺は、思わずアオイは引き寄せた。 そして、固く抱きしめる。 「どうしたんだよ、アオイ! 泣くなよ……」 「だって、だって……リュウジとさよならすると思っていたから……」 「バカ! そんな事あるものか!」 「だって、だって……うっ、ううう」 アオイは俺の胸に顔を埋めた。 そして、声を出して、わんわんと泣いた。 我慢していたものが堰を切って溢れだした。 そんな風に。 分かるよ。アオイ。 アオイは、ずっと一人で悩んでいた。 そして、孤独と戦っていたんだ。 寂しかっただろう。 頑張ったな。アオイ。 俺は、アオイの頭の後ろに手を回し優しく撫でた。 アオイは俺の胸で泣き続けていたが、しばらくして落着きを取り戻した。 俺は、アオイの頬を両手で包み込み、アオイの額に額を合わせた。 「……アオイ、大丈夫。俺はずっとお前のそばにいる。だから、泣くな」 アオイは、涙で潤んだ目で俺を見る。 そして口を開いた。 「泣くなって?……リュウジ、お前も泣いているじゃないか……」 「えっ?」 俺は咄嗟に頬を触った。 涙……。 そっか。 俺は泣いていたのか……。 そうだよな。 俺もホッとしたんだ。 もう二度とアオイと会えなくなってしまったら。 そんな心配をずっとしていたのだから……。 俺は慌てて腕で涙をぬぐった。 「泣いてなんかない。これは汗だ!」 「……リュウジ、それ絶対に涙だろ? ……ふふふ」 アオイは、泣き笑いをした。 俺もつられて笑う。 「違うって……汗だ、汗。まぁ、涙ともいうな……」 「ぷっ! やっぱり泣いていたんじゃねぇか! あははは」 「ははは。まぁな……いいだろ!」 俺は口を尖らす。 でも、すぐにぷっと吹き出した。 お互い泣いてスッキリした。 アオイは、ハレバレした表情。 俺も、きっとそんな顔をしているはずだ。 アオイは言った。 「でも、本当にごめんな。オレ、完全に勘違いしていて……心配かけたよな?」 「いいって……俺がちゃんと言わなかったのが悪いんだから。だから、いいか、明日からは学校来いよ! いいな!」 俺がそう言うと、アオイは、にっこりと笑って言った。 「う、うん。分かった」 素直なアオイが戻ってきた。 これで、またいつも通りの俺達。 俺は、よし!と、ベンチを立ち上がった。 しかし、アオイはオレのシャツの裾を握って引っ張る。 「なぁ、リュウジ」 「ん?」 アオイは、上目遣いに言った。 「仲直りのキス。してくれ……」 頬を赤らめて目をチラッと逸らす。 くぅうう、堪らない。 可愛い、可愛い、可愛い、あぁ、言い足りない。 アオイ! お前、やっぱり最高に可愛いぜ! 俺は、そんな気持ちを押さえて男前に言い返す。 「ふっ……いいぜ」 俺は、アオイの顎をクイっとしゃくる。 そして、目を閉じると、唇を近づけた。 チュッ! 唇が重なったと思いきやすぐに濃厚なキス。 舌を絡め、唇を吸い、互いの唾液が行き来して混ざりあう。 そして、舌先で弾き合い、ちゅぱっ、ちゅぱっ、と音を鳴らした。 俺達は、久しぶりのキスを思う存分楽しんだ。 長いキスの後、アオイは、よだれを拭いながら言った。 「はぁ、はぁ、やっぱり、リュウジのキス。オレ大好きだ」 「俺もだ。アオイ。はぁ、はぁ」 俺は、アオイの体をギュッと抱いた。 俺達は、公園を後にして歩き出した。 手を繋ぐのも久しぶり。 温かくて柔らかい指先。 もう、この手は絶対に離さない。 そう、指先をギュッと握って、ふと思いついた。 「……ていうか、アオイ。お前、なんで、そんな大事な事を俺に言わなかったんだ? 親父さんの事とか、中学の時の事とか」 「な……いや、お前に嫌われるかと思って」 アオイは明らかに動揺している。 俺は追い打ちをかけるように言った。 「んなわけあるかよ! 考えてみれば、アオイが一番悪いんじゃねぇか。親友なんだから、そんな秘密事はなしだろ?」 「た、確かにな。オレが悪かったかも……」 しょぼくれるアオイ。 俺は、ここぞとばかりに提案する。 「じゃあ、俺の願いを聞いてくれたら許してやるよ」 「なんだよ。願いって……」 不安がるアオイに、俺は得意になって言った。 「明日、体育ないから、俺がプレゼントしたエロ下着を着てきてくれ。あー、ちゃんと上もだぞ。透けても着るんだぞ」 「へ?」 口を半開きにして呆けるアオイ。 しばらくして、アオイは大笑いする。 「ぷははは。なんだよ、リュウジ。早速、オトコの娘って奴をご所望か?」 「その通り! アオイのエロ可愛いところ、見たいからさ!」 俺は、ウインクしてアオイに合図を送る。 アオイは、笑い過ぎで涙が出てきたのだろう。 目じりに溜まった涙を拭きとった。 そして、俺に人差し指を向けて言った。 「いいぜ。オレは、お前が大好きなオトコの娘だもんな! 思う存分萌えさせてやる!」

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