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第55話 雨上がりと笑顔と
「あ、雨あがったみたいだ、咲」
社長が寝室の窓際に立ち、ベッドでシーツに包まる俺に向かって告げる。
「このまま梅雨が明ければいいのに」
「そうですね……でも」
「ん?」
「俺はもう梅雨を苦手だと感じることはないと思います」
「咲……」
社長が傍に来て、シーツごと俺を抱きしめてくれる。
辛い思い出だけの季節は、この人がきれいに塗り替えてくれた。
白とピンクのアジサイで。
その存在自体で。
「ありがとうございます、社長……」
「違うだろ、咲」
「えっ……? ……あ……和希、さん」
「よろしい。あとは敬語もやめろよ」
「それは、そんなに急には無理です……」
俺の社長への敬語はすっかり習い性になっていて、やめろと言われてもすぐには無理だ。
俺が困っていると、社長は苦笑する。
「ゆっくりでいいから。もっと俺に近づいて来て、咲」
額にそっとキスを落としながら囁いてくれる大切な人。
俺は溢れて来る幸せな気持ちのまま彼に笑って見せた。
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