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第40話

背中を押され浴室にやって来たまでは良い。 けれど、すぐに足が動かなくなってしまった。 「先に入ってるか?」 そうしたいのは山々だが、壁が硝子ならどちらにせよ見えてしまい恥ずかしい。 これなら先に入ろうが後に入ろうがあまり変わらない気がする。 どう答えて良いか分からず目を泳がせていると頭をぽんと撫でられた。 長岡を見ると安心させるように視線を合わせてくれる。 こういう事を無自覚にするから狡いんだ。 「安心しろ。 部屋の方見てるから先に入りな」 「はい。 ありがとうございます…」 浴室は浴室だ。 小さな─自宅や長岡の部屋のものに比べたら大きいが─空間でしかない。 だが、壁がそれの意味を果たさず部屋まで見えてしまうのが落ち着かない。 服の裾に手をかけたがまた動けないでいる。 何時までも布切れの音のしない三条に気が付いた長岡は脱ぐのちょっと待てよと声を掛け浴室に入っていった。 なんだろうと思う間もなく、その理由はすぐに分かった。 「ほら、これで少しは見えねぇだろ」 2度ほど温度を上げた湯をシャワーで壁に撒くと透明な壁は温度差で曇っていく。 透明だったそこは白く変わった。 「ありがとうございます」 「どういたしまして。 じゃ、先どうぞ」 濡れた足で帰ってきた長岡は、またぽふっと頭を一撫でし部屋の方を見てくれた。 時々意地が悪い事をしてくるが本当はこうして優しい。 今はその行為に素直に甘える。 今度こそ身に纏う着衣を脱ぎ落とす。 先週付けられたキスマークがまだ残る身体が明るい場所で露になる恥ずかしさはあるが、折角長岡が白くしてくれた壁がくすんでしまう。 「お先に失礼します」 脱いだそれらを畳み端に置くとさっと浴室に逃げ込んだ。

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