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飼ってあげる 7
オレは昔の事を思い出して、あまりの変わらなさに思わず吹き出していた。
「懐かしいなー。昔もそんな風に誘われたっけ」
「お前が綺麗なんだからしょうがないだろ」
「くすくす・・・ごめんね。でもダメ」
「なんで?」
少し不機嫌そうに眉根を寄せるカズキ。オレはビールを飲みながら、後ろのテーブルからオレだけを見つめている視線を感じていた。
ねっとりと、じっくりと、オレの一挙手一投足を見ている。珀英もカズキも同じように見てくるのに、珀英の視線は嫌な感じがしない。たぶんカズキの視線は性欲のみで、珀英の視線は愛情をちゃんと感じるからだろう。
今ももちろん見ているから、カズキがオレの腰を抱いたことだって、ちゃんと見ている。
ちらっと視線だけ向けると、珀英が今にも殴りかかってきそうな表情(かお)で、カズキをものすごく睨(にら)んでいるのが見えた。
思わずくすりと笑うと、珀英が気づいて気まずそうに視線をそらせては、また戻すを繰り返す。
そんな珀英が可愛くて、思わずちろりと口唇を舐めると、顔を赤くして視線をそらしてしまった。
あー、本当に、揶揄(からか)うと面白いんだよな。
オレは視線をカズキに戻して、上体をテーブルに近づけて、くすくす笑いながら、甘えるように見上げる。
「・・・んー・・・炊事掃除洗濯が完璧にできて、オレこだわり強いから色々細かいうちの家事を全部任せられて。あとオレの我儘(わがまま)全部きいてくれて、オレの体調管理も完璧にやってくれて、オレが会いたいって言ったら飛んできてくれて」
「なんだそりゃ?」
カズキが笑いながらビールをあおる。オレは上目づかいで見上げた姿勢のまま、視線だけで誘う。
「オレがして欲しいことは全部してくれて。オレを中心に生きてくれるなら、セックスしてもいいよ」
オレが誘ったのを察知して、顔を寄せてきたけれど、オレの言葉を聞いて、カズキは思いっきり呆(あき)れた顔をする。
「そんな犬みたいなやつ、いる訳ないだろう」
「そう?地球にこんだけ人間いるからね、どっかに一人くらいいるよ」
オレは腰を掴(つか)んだままのカズキの手を掴んで、引きはがす。拗(す)ねた演技をして口唇を尖らせる。
「犬になってくれないなら、犯(や)らせない」
「残念」
カズキは素直に手を引っ込めると、肩を竦(すく)めて笑った。半分本気で半分冗談。いつものやり取りが可笑(おか)しくて、二人でくすくす笑って、それからは普通に近況やら音楽談義やらを話していた。
その間、ずっと珀英の視線を感じていた。後ろから、ずっと、ずっと、目をそらすことなく。
オレは珀英に視姦(しかん)されている気分だった。あまりにしつこく見ているから、珀英に見られているところが、熱を持って、じんわりと体の底から肉欲が湧(わ)き上がる。
珀英があまりにも見るから。しかも後ろから、ずっとずっと、上から下まで、浅いところから深いところまで。
ねっとりと、しつこく。
その視線に欲情した。
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