膨らみに触れた瞬間、掴んだ手がびくっと震えるのに、思わず口角が上がった。男は即座に手を引っ込めようとしたが、逃がす心算なんて無い。骨が軋む強さで手首を握り締め、ぐっと股座に押し当てれば、金色の目が信じられないとばかりに見開かれる。 「魔力ってのは精液で回復するんでしょ。この通り、コッチは準備万端ですから」 「ッ…駄目、だ、いけない」 「何が駄目なんですか、別に悪い話じゃないでしょう？あんた、まだ本調子じゃないんじゃないの。その身体なら俺の手くらい簡単に振り払えるでしょ？」 「それは……」 「やっぱりそうだ。自分の身体が思うように動かないの、辛いんじゃないですか？」 「……」 　体調云々はカマを掛けただけだが、どうやら当たりだったらしい。明らかに言いよどむ素振りを見せた男は、唇をもごつかせながら目を逸らす。 　満月色の瞳がゆらゆら揺れている。畳み掛けるなら今だ。 　俺は大きく身を乗り出して男の顔を覗き込んだ。鼻先が触れるほど近くまで顔を寄せ、一つしかない眼をじっと見据える。 「ねえ、考えてみてくださいよ。これはあんたの為だけじゃない。俺だってこのままじゃ苦しいし、吐き出してスッキリしたいんです。大体あんたの所為でこうなってるんですよ？いい歳して責任も取れないんですか？」 　わざと嘲笑混じりに言葉をぶつける。だが男は煽りに乗ることはなく、頑として肯かずに唇を結んだままだ。頑なな態度に苛立ちが募る。クソ、なんだってんだ。昨夜は自分から跨ってきたくせに。 　悪態吐く代わりに舌打ち、俺は掴んだ手を勢いよく引いて、太い腕に組み付いた。抵抗せんと男が動く。が、もう遅い。関節を極めるのに体格差は関係ない。遠慮など欠片もせず力を籠める。 「ッ、ぐ…！何、を」 「逃げるなんて酷いじゃないですかァ。仲良くしましょうよ」 　痛みに呻く巨躯を引き倒し、馬乗りになって押さえ付ける。嗜虐心に身震いしながら、俺は男の胸倉を掴んで顔を寄せ、唇に噛み付いた。 「な……っ、んん…ッ！…ふ、ぅ……」 　制止しようと開いた隙間に躊躇なく舌を捩じ込む。たっぷり唾液を流し込んでやれば、瞬く金色が恍惚と潤むのが見えた。唾液にも魔力とやらが含まれている所為だろうか。一気に抵抗が弱まったのをいいことに、俺は好き放題に咥内を荒らし回った。 　ぐちゅ、ぐちゃ、と水音を立てて咥内粘膜を弄り、喉奥へ舌を差し入れ、唾液を注いだ。張り出した喉仏が上下し、嚥下する動きが伝わってくるのにほくそ笑む。 「ん、ん゛…ふ、ァ、うう゛、ん♡」 「ン……っは…あー、ベロ疲れたァ」 「ぷはっ！…ァ、う…？」 　息が切れるまでたっぷり貪り、与え尽くして、俺は漸く唇を離した。舌も唇もじんじん痺れて怠いが、男の方はもっと酷そうだ。唇は半開きのまま、微かに喘ぐ度に唾液が垂れて、片方だけの金目はとろりと蕩けて焦点がぶれている。寄せられた眉根もただいやらしいだけだ。 「えっろ、キスだけでトロトロじゃん。そんなに美味しかった？」 「ぅ゛……う゛ゥ……」 　ぐたりと力が抜けた腕を解放してやる。男の濡れた口元を親指で拭って舌なめずりしていると、褐色の手がふらふらと持ち上がる。　何をするかと思えば、すっかり弱々しくなった腕で俺の身体を押し返してくる。尤も、碌に力なんて入っていないが。 （そんなに嫌なのかよ） 　心臓がズキズキ痛む。男は固く目を閉じたまま、首を小さく左右に振る。言葉がなくとも拒絶されているのはよく解かった。 　俺は痛みを誤魔化したくて、はたはたと揺れる兎耳に思い切り噛み付く。柔らかい軟骨に歯を立てれば、下敷きにした逞しい肉体がびくっと跳ねた。次いで、片手で股座の辺りを弄ると、案の定だ。男のご立派な逸物も、大きく膨らんで、ジャージの布越しにもはっきり判る位に熱く湿っている。 「駄目駄目言いながら勃起してるじゃないですか。淫乱」 　きついウエストに無理矢理手を突っ込んで、引き摺り下ろす。グレーのボクサーパンツはすっかり濡れて色を変えていた。片手に収まらない大きな膨らみを躊躇なく握り込む。粘液がぬちゃりと糸を引いて、布越しに熱と硬さが伝わるのにほくそ笑んだ。 「折角パンツ履いたのに、ぐしょ濡れになっちゃいましたねぇ」 「んンっ♡ぅ゛、ア……ッ、駄目、だ……ァ、あッ♡♡」 「こんなおったてて我慢汁垂らしながらじゃ説得力無いですよ。あ、もしかして穴の方も？」 「や、うう゛……ッ、ぁ、あァっ♡」 「ハハ、やっぱり。もうぐちゃぐちゃだ」 　布越しに指で擦ってやれば、水気が増してぐちゃりと音が鳴る。そのまま手を後ろへ回して肉厚な尻を掴み、窄まりをぐっと押し込んでみると、ぬかるみに沈み込むような感触。滴る程に濡れた肉穴は雄を咥え込むための性器でしかない。 　俺は尻肉をぐにぐに揉みながら、下着ごと指を突き込んで肉壺を掻き回した。男の口からは引っ切り無しに甘い声が上がる。 　だというのに、刺青の刻まれた腕も、閉じられたままの目も、相変わらず俺を拒絶したままだ。 「前も後ろも濡らして興奮してるくせに、何でそんなに嫌がるんですすか？ねえ、気持ち良いんでしょう？もっと気持ち良くなりましょうよ」 「だ…め、ァあっ♡♡ァ、ぐ…やめ…ッ」 「――…ッ、だから、なんでダメなんだよ！？」 　意図せず出た怒声が狭い部屋に反響する。 　うわん、と響く音に驚いたか、男の動きが止まった。だが、俺の煮立った頭と腹は収まりやしない。 （拒まれたくない。受け容れられたい。この男が欲しい、欲しいのに、どうして……！） 　訳の分からない感情の昂ぶりで視界が滲む。ギリギリ奥歯を噛み締めて。そうしなければ自分が何を口走るか分かったもんじゃない。 　男が動かないで居る隙に腹へ馬乗りになる。そうして、俺は下着を無理矢理剥ぎ取りに掛かった。