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 どうしてこんなに必死になっているのか解らない。頭の片隅に残った冷静な部分が、自分自身を嗤っている。この男の所為だ。この男の所為で―――  嗚呼、俺は随分と性質が悪い拾い物をしてしまったらしい。  苛立ち任せにボクサーパンツを毟り取り、長い脚から引き抜く。まるで抵抗も無くあっさり下半身を裸に剥くことができた、それが却って癪に障り、勢いよく顔を上げて男を睨み付ける。  だが、男は、笑っていた。一筆で書いたような眉を柔らかく下げて、どこか懐かしそうに目を細めて。 「ッ……」  場違いな表情に面食らう。その隙に、逞しい両腕が俺の身体へぐるりと巻きつき、そのまま優しく抱き締められた。 「は?何……んぅ」  訳も分からずぽかんと口を開ければ、柔らかく濡れた唇で塞がれる。  キスされた。真っ白になった頭で理解する前に、厚い舌がちろりと皮膚表面を撫で、触れた時と同じようにそっと離れる。俺が仕掛けたのとはまるで違う穏やかなキスだった。  何が起こっているのかまったく頭がついてこない。さっきまで散々拒絶されていたのに、今、大きな掌が俺の背中を撫でている。もう片方の手は頭だ。傷だらけの無骨な手が優しく髪を撫で梳いている、 「ッ……おい、何やってんだよ、まさかこんなので懐柔する気ですか?ふざけるのも大概に……」 「泣かないで」 「なッ!?泣いてねえ!ちょっと、おい、人の話…!」 「よしよし」  暴れても俺の倍くらい太い両腕はびくともせず、文句を言ってもどこ吹く風だ。  俺を抱き締めたまま、男はもぞもぞと身体を揺らしている。何をするのかと思えば、片足に引っ掛かっていたボクサーパンツを脱ぎ捨て、俺のデニムを下着ごとずり下ろし。身体を密着させたまま上下を入れ替え、俺を押し倒すという器用な真似をやってのけた。 「ん。これで、良し」 「え……いや良くないだろおかしいだろ!何なんですこの状況!?」 「大丈夫」 「何が!?」  薄々感じていたが、このおっさん、人の話を聞く気が無い。  下半身では互いの勃起がごりごり当たり、生々しい感触に息を飲む。もしやこのまま犯されるのか。勘弁してほしい。俺はおじさんと違って勝手に濡れる訳でもなし、無理矢理突っ込まれて痔になりたくない。というかそもそも男に犯されるのが嫌だ!  青褪める俺の頬を大きな掌が撫で、胴体に巻きついていた腕が緩む。脱出のチャンスだ。俺は逃げ出そうとしたが、それより相手の方が早かった。  大きな身体がすっと屈み、精悍な顔が俺の股座に近付く。そうして、この期に及んで勃起しっぱなしの肉棒をぱっくりと。大きな口が咥えてしまった。 「ひェっ!?」  思わず腰を引こうとするも、大きな手でがっしり掴んで阻まれる。口腔粘膜が性器を根元まですっぽり覆い、温かく柔らかいものに隙間なく包まれる感覚に目の前が眩む。 「んん、む…ぅ゛」 「な…に、してんだよアンタ……ッ、さっきは嫌だって」 「む、ぅ゛う゛?ふぅ゛、ぐ、うう゛、む゛」 「っ、咥えたまま喋んな、ァ」  相手が声を発する度に喉がて震え、腰から背筋をビリビリ快感が走る。その上、蜜色の瞳で上目遣いに見詰められ、正直すぎるちんこが一回り大きくなった。喉奥で笑ったような微かな振動。それすらも酷く気持ちが良い。  嫌だ駄目だの拒否から一転した受け入れ態勢、否、大変積極的に攻められてもう何が何やら。混乱した頭を整理しようにも、相手は遠慮なく人の勃起に吸い付いてくるし、脳味噌に酸素を回す余力がない。  ぐちゃぐちゃの頭と心がミキサーで攪拌されるみたいに引っ掻き回される。何だこれ。何なんだ? 「ッ……あーもう、ほんっと訳わかんねえ!!」 「んぶっ♡♡!?」  もう自棄だ。自棄っぱちだ。俺は思考を完全放棄して、股間で蠢く頭を両手で引っ掴む。そのまま力任せに喉を突き上げればくぐもった悲鳴が上がった。構わず無遠慮に頭を上下させ、喉奥をガツガツ突いては、柔らかい粘膜に肉棒を擦りつける。 「う゛ぅえ゛…っ、ぐ♡ふぅ゛う゛♡む、んんん゛♡♡」 「ふざけんなよ、くそ、なんなんだよアンタ!…ッ、くそ、そっちが咥えたんだからな!?」 「お゛、ごっ、んん゛ぅ゛、う゛ぇ゛ッ♡♡」  苦しいのだろう、男が嘔吐ずく度に喉が締まり、亀頭にきゅうきゅう吸い付いて気持ちが良い。響く水音とくぐもった声をBGMに、俺はただ射精するための動作を繰り返す。こんなのオナホと一緒だ。そう思い込もうと必死になって。  眩む視界に、男の閉ざされた片目から涙が散るのが見えた。きらきら光る滴がやけに綺麗で、美味そうで、舐め取りたい衝動に駆られる。でも今は無理だ。  欲求全て性欲にすり替え、掴んだ頭を揺さぶり喉奥を抉る。苦し気な、けれど甘ったるい声。奥まで挿れるとより一層甘くなるのに気付いて知らず口角が上がる。喉も性感帯なのか。  嗜虐心に身震いしながら、俺は両手に力を籠め、ごりっと最奥を抉り込む。 「ん゛んんッ!♡♡♡♡」 「ほら、ちゃんと咥えて…っ、チッ、出すから、飲んでくださいよッ」 「んん゛、ぅ゛…ん゛んん~~~…ッ!♡♡♡♡」  深々と喉に嵌め込んだまま、溜まり切った欲を吐き出す。食道に直接注ぎ込んで、内臓まで犯して。抵抗されても押さえ込む心算だったが、男の方にそんな素振りはなく、寧ろ熱心に吸いついて啜られている。魔力の元らしいし、零すのが勿体ないのか。理屈はともあれ、唇を窄めてじゅるじゅる肉棒を啜る様は視覚からも聴覚からもキく。  お陰で興奮止まず、精子も中々止まらず、昨晩たっぷり出したばかりなのにまた大量に出た。それでもなお弾切れの感覚が無いのが恐ろしい。

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