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1.夏が始まる(1)

 期末試験は死んだ。  柊翔が一緒に勉強を見てくれたけど、俺は柊翔みたいに頭はよくないから、きっと面倒くさいだろうな、と思ってた。でも、根気強く、俺のために教えてくれてた。  でもでも。    柊翔の横顔に、時々見惚れてたなんてことは、気づいていないだろう。 「お、終わった……」  俺よりも、死んでいるヤスが、自分の席で倒れ込んでいる。 「ヤスくん……」  残念そうな目で、隣の席から見ている佐合さん。 「茜ちゃ~ん」  抱き付こうとしているヤスは、両手で断固拒否をしている佐合さんが……嫌そうな顔をしているのに気が付かないのか……? 「ヤ、ヤス、諦めろ……」  後ろから羽交い絞めして、離れさせる。 「くそ~!慰めてよ~!」  ほどほどにしとけ。というか、冷静に佐合さんの顔を見ろ。  中間試験の時は、試験が終わった後は、柊翔は部活に行ったけれど、この期末では、すでに引退しているので部活に行くことはない。 「要~っ!」  教室の入口に、いつもの爽やかな笑顔で現れた柊翔。 「あ、はいっ」 じゃあな!、と佐合さんとヤスには片手を上げると、鞄を持って席から離れた。 「気を付けてね~♪」 「またな~!」  二人の声が、なんだか冷やかしているように聞こえるのは、気のせいではないだろう。もう、この二人は俺たちの関係を当然のことのように見てる。最初こそ、ヤスは困惑していたけれど、おそらく佐合さんの説得?のおかげか、今では、二人で一緒に応援してくれている。  だからといって、俺たちの関係がオープンになってるわけじゃない。 「鴻上先輩っ!いつも獅子倉くんと一緒なんて、ずるいっ!」  うちのクラスの女子たちの中でも、積極的な子たちが、柊翔の周りにへばりついている。笑って誤魔化してる柊翔を、廊下に引っ張り出すと、背中を押して昇降口に向かう。 「ほんと、モテモテですよね。鴻上さんは」  飽きれ気味に言ってるつもりなのに、 「なんだよ、ヤキモチ?」  なんて、嬉しそうに言ってくる。ヤキモチのつもりはないけれど、そういう風に言われると、意識してしまって、顔が赤くなってる気がする。 「な、何言ってるんですか」  靴を履きかけている柊翔を残して、俺は先に校舎から出た。 「待てよっ」  追いかけてきた柊翔は、俺の後ろから肩を組んでくる。 「ち、近いよっ」  顔が近すぎるから、小声で言うのに、面白そうな顔をして俺の顔を見て言うのは。 「こういうスキンシップだったら、誰も何とも思わないだろ。」  それ、耳元で言ったら、怪しすぎると思うんだけど。

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