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1.夏が始まる(2)

 柊翔は、あの最後の事件の後から、やたらとスキンシップが増えた。俺も、柊翔に対しては、前のように恐怖も感じないし、嫌じゃなくなった。  しかし、あからさまに、誰が見てても触れてくるのには、ちょっと困っていたりする。さすがに、手を握ったりまではしないけど。下手にベタベタしすぎて、柊翔に変な噂がついてまわらないか、心配しているのだけれど、そんな心配など気にしないかのようで。  俺が一人でヤキモキしているみたいだ。 「要、この夏、一緒にどこかに旅行にでも行くか?」  肩を組んだまま、楽しそうに俺に言ってくる。 「もう、暑いんですけど」  そうだ。もうすぐ夏休みなんだ。それなのに、この人は、ベタベタと。 「そんな爽やかな笑顔されても、暑いものは暑いんですっ」  無理やり、腕をひっぺがした。  チェッ、と拗ねたような顔したり、どっちが年上なんだかわからなくなる。柊翔って、こんなにお子様だったの?と、俺の方が驚くくらい。 「鴻上さん、遊んでる場合じゃないんじゃ?」 「ん?」 「一応、受験生じゃないですか。」 「そうだね」 「で、遊ぶ暇あるんですか」 「ん、要とならね」  夏休み、というキーワードのおかげで、能天気に拍車がかかってる気がする。 「いや、そうじゃなくて。剣道部の合宿とかは?予備校みたいのには行かないんですか?」  こっちは心配しているっていうのに。 「ん~。行くけど、ちゃんと要と一緒にいる時間も作りたいんだ」  ニコニコしながら、隣を歩く柊翔。  いつの間にかに、河合先輩が引っ越していて、挨拶する暇もなかったことに、剣道部の部員たちは、ちょっと怒っていたけれど、柊翔と太山さんは、なんとなくその理由を知っているみたいで、そのことには触れてこない。  二年生で団体戦での副将も任されてたこともあって、次期主将とも思われていただけに、剣道部の部員の士気が著しく低下してしまったことは否めない。だからといって、俺に何ができるわけでもないけど。少なくとも、柊翔に、できるだけ剣道部に顔を出したほうがいいんじゃないかって、勧めることくらいしかないかなって。 「剣道部の合宿って、どこでやるんですか?」  駅の改札を抜けて、ホームに向かう。 「ん?毎年、学校の合宿所使ってたけど。まぁ、今年もそうかな」 「へぇ。学校にそんな場所なんかあったんですか」 「まぁ、帰宅部じゃ、知らないよな」  電車が来るまで、あと五分。

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