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第六章・7
「でも、人間の心や体って、怖いね。そのうち僕、心ではイヤだって思ってても、身体は気持ちいいって感じるようになっちゃったんだ」
「それは悪いことじゃない。心が耐えられないような出来事を、脳が快感に変えてくれたんだよ」
は、と露希は誠を見た。
そこには、軽蔑やあざけりの色はなかった。
(誠さんは、僕の全てを肯定してくれるんだね)
嬉しかった。
施設での悪夢が、軽くなった気がした。
「高校生になってから自宅へ戻ったんだけど、お義父さんは相変わらず僕を殴ったりしたんだ。お母さんは、ご飯くれないし」
そのうち、バイトをやらされた。
バイト代は、もちろん全額取り上げられた。
「学校では、僕がΩだからいじめられたよ。楽しいことは何にもなかったな」
「そうだったのか」
誠は、ただ静かに露希の告白を聞いていた。
その手を握り、耳を傾けた。
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