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 言葉もなく孝弘を見つめると、あー、めちゃくちゃキスしたいと不穏な発言。  強い眼差しで射貫かれ、つぎの瞬間、抱きつかれて水中に倒されていた。驚く祐樹の頬に孝弘の唇が押しつけられる。すぐに放され顔を水面に出して息を吸う。  すると今度はやさしく水中に引き込まれ、唇を重ねられた。塩辛いキス。  潜って逃げると追いかけてきて、水中で捕まえられて今度はへそにキスされた。  また逃げるとつぎはシャツ越しに胸に。肩に。首筋に。また唇に。なんども逃げては捕まえられてキスをされた。追いかけっこしながら、やさしく絡みつく腕。 「無茶するなあ、もう」  濡れた髪をかきあげながら、子供っぽいいたずらに笑いがこみあげてくる。 「好きだよ、祐樹。祐樹が逃げても俺がちゃんと捕まえるから、安心していいよ」  水のなかでしっかり祐樹を抱きしめながら、孝弘がささやく。  言っている言葉はおかしいのに、こうやって孝弘が甘やかしてくれるとき、なぜか泣きそうな気持ちになる。  やっぱり孝弘じゃなきゃだめだと強く思う。  この腕のなかがいい。ここでなきゃ安らげない。  ほかの誰かに譲ることなんかできないのだと、理性を押しのけて熱い感情がこみ上げてくる。  誰が見ててもかまわないと首に腕を回して口づけると、孝弘も口を開いて舌を深く絡ませる。  唇がちいさく離れるたびに好きだよと告げると、何度目かで孝弘にうれしいけどもう黙って、と止められた。 「これ以上言われたら、ここで抱きたくなる」  耳元でささやかれ、炙られたように頬が熱くなった。  じゃれあってさんざんキスしたあと、海から上がってシャワーを浴びた。  先に着替えを済ませた孝弘が近くの売店でTシャツを買ってくれて、祐樹も着替えて外に出る。急激に空が暗くなってきていた。  あわてて帰り支度をする人たちが海から急いで上がってくる。更衣室も混んできた。バス待ちの人たちがバス停周辺に集まっているのが見える。 「スコール、来るね」 「ああ。いま帰るとバスもタクシーも混むから、とりあえず、ここで何か食べない? 俺、けっこう腹減ってるんだけど、祐樹は?」  朝は祐樹の希望で粥麺店で海鮮粥と河粉(ビーフン)、昼も軽めに雲呑麺だったから物足りなかったのだろう。 「タイ料理って平気?」 「たぶんね。あんま食べたことない。辛いんだっけ?」 「どうかな。俺もよく知らないんだ」  ビーチの入り口にあるタイ料理屋に入った。  3時半という中途半端な時間なので店は空いている。  よくわからないまま英語のメニューを見てガイヤーンやソムタム、パッタイなどを頼んでみる。  料理を待つあいだもみるみる空は暗くなり、ぱたぱたと雨が降り出した。と思ったらもうバケツをひっくり返したような大粒の雨が落ちてくる。

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