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第7話

『これかれ』 『これから家に来れませんか。LINEの』 『これから家に来れませんか。LINEのアプリを入れてみました』  立て続けに入ったメッセージに、笑ってしまった。  俺はゴシゴシと目蓋を擦って起き上がり、めちゃくちゃ汚い部屋を出て、何にもない部屋にまた戻った。  合鍵を使って中に入ると、慶吾は玄関先に立って待っていた。 「LINEやり始めたの?」 「聞いてくれる? 綾瀬。貰ったネックレスは捨ててないよ」  慶吾は馬のひづめのモチーフが付いたペンダントを首からちゃんとぶら下げていた。青い石が光っている。それを見て心底ホッとした。 「なんだよ。お前、捨てたって」 「カーテンは捨てちゃったけど、これは捨ててないよ。大事にしておこうと思って、この箱にちゃんと入れておいたんだ」  靴箱の上の小さな箱を開けて見せてもらった。そこには家の鍵が入っている。  あぁ、そうなんだ、と漏らす前に、初めてこの部屋に来た時にされたみたいに、体を引き寄せられ、ぎゅっと抱きしめられた。 「俺は少し、人と違うかもしれない。だから綾瀬を悲しませちゃうことがあるかもしれない。でも綾瀬を好きな気持ちに偽りはなくて……大好きなんだ。さっき泣かせちゃって、本当にごめん。ちゃんと、寄り添えるように努力するから」  心臓が鷲掴みにされたように痛くなって、涙が出た。  俺と慶吾は、違う部分がたくさんあるのかもしれない。理解できないことも、これからたくさん出てくるのかもしれない。  でも、諦めたくない。痴漢男から助けてくれたあの日から、俺はずっと慶吾に恋をしている。  俺も腰に手を回して、慶吾の体をぎゅっと抱き返した。 「いいよ、もう。俺も、いきなりカーテンなんかプレゼントしちゃって悪かった。慶吾が必要だって思うのだけ、部屋に置けばいいよ。そのままのお前で大丈夫だから」  そう言うと、慶吾は一旦体を離した。 「カーテン、さっき買ってきた」 「えっ」  来て、と手を引かれた俺は、部屋に入って驚いた。  窓にはしっかりカーテンがかかっていた。  俺がプレゼントしたカーテンの色味よりも多少濃いけど、無地の茶色いカーテンだ。 「同じ物が見つけられなくて。ごめん」 「いや、それはいいけど……」  俺はそれよりも、床に本が何冊か積み上がっているのが気になった。まだ封を開けていない新品の漫画で、今度映画にもなる予定の、俺のお気に入りの漫画全二十冊だ。 「これも、買ったの?」 「うん……綾瀬が好きな物は、俺も好きになりたくて」  慶吾はなんだかブルブルと体を震わせていた。  発作か? 捨てたくてしょうがない発作が出ているのかっ?  しかし俺はおかまいなしに、慶吾をベッドの上に押し倒した。ちゅ、ちゅ、とほっぺや額にキスを落としていく。 「馬鹿だな。漫画は買わなくたって、俺が貸してやったのに」 「いいんだ。時間をかけて少しずつ読んでいく予定だし、物があることに…ちゃんと慣れていかなくちゃ……」  ちょっと青ざめている慶吾を無視して、俺は部屋の電気を消すように頼んだ。 「もしかして、するの?」 「当たり前だろっ。俺はしたくてしたくて、しょうがなかったんだよ」 「……うん。俺も、ずっとしたかったよ」    何も無い部屋での慶吾とのセックスは、ちょっと恥ずかしかった。  自分の喘ぎ声が部屋中に響き渡るし、結合部からは水をかき混ぜるような恥ずかしい音もばっちり聞こえたし。  ついでにコンドームはこの家に置いてないみたいだったから、付けずにした。中に何度も出されて、これまた恥ずかしい。  いいんだ。恥ずかしくてもなんでも、慶吾と一緒にいられれば。  お互い、最後の吐精が終わり、どこもかしこもビショビショな俺は息も絶え絶えに訴えた。 「はぁ……慶吾、ティッシュもらっていい?」 「あ、ごめん。ティッシュは置いてないんだ」 「……おっけ」  部屋には何もなくたって、大好きな人がいてくれれば充分だ。  ティッシュは今度、家から持ってきてやるか。  笑って慶吾の体に抱きつくと、お揃いのネックレスが寄り添うようにそっと重なった。    ☆END☆
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ミニマリストの動画を観ていたら、こんな話を思いつきました笑 慶吾にとって綾瀬は無駄なものなんかじゃないって、きっと二人で分かり合えたと思います。 読んで頂き、ありがとうございました☆