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第6話

 次の日、慶吾の部屋を訪れた俺は目を疑った。  前来た時と、状況が変わっていない。  すなわち、昨日俺がプレゼントしたカーテンが、まだ取り付けられていなかったのだ。 「なんだ、まだ付けてなかったんだ。俺も手伝うよ」  窓の前に立つと、ガラスに反射して背後にいる慶吾の姿がよく見えた。  慶吾はなぜか、肩をがっくりと落としているので振り返った。 「え、どうしたの」 「あの、綾瀬。本当に、ごめん」  それだけ言って、慶吾は頭を下げた。  なんのことで謝られているのかさっぱり分からずに、その意図を探ろうと何もない部屋を見渡す。  いつも通り、何もない。何も……  俺は思い立ち、慶吾の横を通りすぎて押入れのドアを開け、中を確認した。  棚の抽斗(ひきだし)を開けても、見当たらない。  一応トイレとバスルーム、キッチンの収納棚も覗いてみたけど同じだった。  俺は慶吾の前に立ち、胸ぐらを掴む。 「カーテンはっ?」 「ごめん」 「まさかっ、捨てたの?」 「付けようと思って、昨日袋から出してみたんだけど、ダメだった。手が震えちゃって……そのまま袋に戻して、今日、可燃ゴミの日だったから」 「出したのっ?」  慶吾は唇をぎゅっと噛み締めていた。  それを見て口をあんぐりと開けてしまう。  まさか、捨てるだなんて……嘘だろ? 昨日渡したのに……ていうか、恋人の誕生日プレゼントだぞ⁈  俺は自分のしているネックレスを掴んだ。  これと同じ物は、目の前の恋人の首にかかっていない。  俺はさーっと血の気が引いていった。 「慶吾……これも、もしかして」 「いや、これは……」 「サイアク」  俺は慶吾を突き放し、玄関の方へバタバタと駆け出した。  その途中で腕を掴まれる。 「あの、今度は絶対に捨てないから。本当にごめん。これ」  慶吾はポケットからうっすい財布を取り出し、中から一万円札を出して俺に握らせようとしてきた。  そんな超的外れな行動に、ますます俺の頭に血がのぼって、ぶわっと涙が出た。 「馬鹿にすんなよっ! もう、慶吾なんか知らねぇ!」  無駄な物がないから、すんなり玄関に辿り着き、すんなり靴を履けてしまった。  一万円じゃ足りないんだよ! というセリフこそ的外れなので黙っておくとして。  くそ、追いかけてこいよ、という俺の儚い望みは望みのままに終わった。  慶吾が追いかけてくる気配はなく、俺はすんなり家まで戻ってきてしまった。    俺はベッドにうつ伏せて枕を濡らす。  わかっている。慶吾は捨てたくて捨てたわけじゃない。強迫観念に囚われて、自分でも止められないうちにそうした行動を取っていたんだろう。  だけど。  ネックレスを強く握る。  それでもせめて、これは捨てないでほしかった。せっかく、似合うと思っておそろいで買ったのに。  やっぱり、ミニマリストの慶吾と付き合ってくのって、無謀なんだろうか。  俺の事も、不要なものだって思われてるんだろうか。  今日は一晩中、泣き続けるんだろうなぁと思っていたら、スマホにメールの着信がきた。  何気なく画面を見ると『小林 慶吾』と表示されていた。  しかしそれは、いつものショートメールではなく、LINEの通知だった。

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