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第8話
8 天パくんの不安と心配
バスタブの中で寺崎先生を後ろから抱っこして、唇を吸い合う。
濡れた音がバスルームに響いた。
シャワーを浴びながら、つい挿入してしまって。
バスタブに入ってみたけれど、どちらからともなくこうしてキスを繰り返してる。
本当は先生の部屋に来た時から、こうしたかったんだけど。
でもせっかく念願の部屋に来たんだから、もっと先生を見ていたかった。
いつも出来ないことをしたかった。
でも先生がじっと僕を見つめてくるから。
って、先生のせいじゃないんだけど。
舌を深く絡めていると、先生の僕の髪の中に差し込んだ指がきゅっと掴んできた。
そっと離れるとちゅっと音がして、お互いの唇から糸を引いた。
先生はほんのり赤くて。
でもそれがお湯のせいなのか、さっきのセックスのせいなのかわからない。
荒く息をしながら、ぼうっと僕の喉あたりを見てる。
指は髪を弄んで、もう片方の手は腰に回した僕の腕に添えられている。
ぺろっと舌なめずりをした先生が、くっと笑った。
「…やっぱりこうなったか…」
「すいません」
反射的に謝ると、「責めてない」と笑われる。
それからまた頭を引き寄せられ、口付けが始まる。
絡めて、舐め合って、吸い上げて。
くちゅ、ちゅ。
音がするほど絡める。
最初はあんなに音を気にしてたのに、先生はもう気にしてないみたいだ。
僕が手を胸に移動させて触り始めても、止めない。
胸をくるっと撫で回すと、ぽつっと尖ってまるで誘ってるみたいな乳首を指先でこねくり回す。
びくっと震えるが、かえって口付けが激しくなる。
僕は手を先生の腰まで落として軽く持ち上げた。
もともと軽い体だけど、浮力も助けて簡単に持ち上がる。
そのまま自分の方に引き寄せて、熱く立ち上がったものの上に下ろした。
ずるっと簡単にはいりこむ。
「はあ、あああん、ん」
先生が仰け反って、僕の肩に頭を落としてきた。
「朔弥さん」
呼ぶとぴくっと跳ねる。
それからゆっくりと僕を見上げてくる。
「動いて」
「で、きない」
「こうやって」
先生の腰を掴んで、回すように動かす。
「ひ、んぅ、く、ん、あ」
「ほら、いいでしょ?動いて」
僕がねだると、恨めしそうに睨んでそれから湯船に手をかける。
それから教えたように、腰を押し付けて回し始めた。
「んあ、んはあ、あ、あん、しら、き」
「いい、よ。朔弥さん」
「あああ、ん、あ、ああああ、し、らき」
「そのまま動いててください」
僕は腰を突き上げた。
「ひぃ、い、んあああ、あ」
「朔弥さん、朔弥さん」
僕が呼ぶと、先生はちょっと振り向いて僕の首に腕を回してくる。それからキスをねだるように舌を出した。
僕はその舌に吸い付いて、まるで先生の性器のように唇でしごいて見せた。
「ふあ、は、ああんん、はあ、と、ともひさぁ」
快感を追うことをやめられず、腰を振り続ける先生を、僕は深く突き上げる。
「ひあ、も、もう、とも、きぃ、いくっ」
いく、と何度もいう。
僕にもイケと言ってるみたいだ。
「うん、僕も」
「あああ、ともきっ」
僕が応えると、ぎゅっとしがみついて花が咲くみたいに全身を赤く染めた先生が、ビクビクと痙攣した。
中の収縮は物凄くて、堪えようと我慢した僕を搾り取った。
「朔弥さんっ」
こうやって最初は不意打ちだったけど、体を重ねるようになってわかったけど。
先生は淫乱だと思う。
慣れてくると欲しがってばかりで、嬉しいのは嬉しいんだけど、心配にもなる。
先生は目覚めてしまったんじゃないのかって。
もしかしたら挿れてくれるなら誰でも良くなってしまったんじゃないのか、って不安になる。
それぐらい感じ方がすごい、と思う。
最近は前への愛撫より、後ろに指を挿れてかき回したほうが感じるし。それこそ後ろの入口をちょっと撫でただけで勃っちゃうし。
先生は年上だから他の人ともしたことあるだろうし。
実際に先生の周りに誰がいるのか僕にはわからないから。
先生がどんな1日を送ってるのか、帰ったら何をして誰と会ってるのか。
放課後の一、二時間しか会えない僕にはわからない。
藍川先生と親しいことも知らなかったし。
他にどの先生と親しいのかも知らない。
先生はもしかしたら、男は初めてじゃないかも知れない。
だからこんなに淫乱なのかも。
こんなに淫乱な先生が、テクニックもない回数ぐらいしか取り柄のないような僕で満足できるのだろうか。
もしかしたら他に、いるのかも。
それを確かめたくて、部屋に来たかったけど。
そもそも先生のことを知らないから、他の人がいる痕跡すらわからない。
「こら」
突然、髪を引っ張られた。
「え」
「おざなりのキスならするな」
眉を寄せた先生が僕を見上げていた。
僕らは湯船の中でもやっちゃった後も、そのまま抱っこして、ずっとついばむキスをしたり、深く絡めたりと、イチャイチャしていた。
「そんなこと、ないですよ」
「嘘だな。考え事をしていただろう。なんだその愛撫は。全然感じないぞ」
「え」
胸を触っていたことを言ってるらしい。
「先生でも、感じないことあるんですね…」
思わず言ってから、しまった、と思った。
「なんかさっきから言葉に棘があると思っていたが。なんだ、言ってみろ」
眉を引き上げ、目が細められる。
あ、怒らせた。
「べ、別に、なにも」
「白木、お前は嘘が下手だ。言え」
「た、ただ先生は、その感じやすいし、…今じゃ後ろだけでもイケちゃうし…、なんか、その、挿れてくれるなら人なら誰でもいいんじゃないかな、なんて…」
先生の眉がピクッと動いた。
「ほう、お前は俺のことを淫乱だと思っているんだな」
「だ、だって!実際淫乱でしょ?挿れちゃったらもう、すぐ、とろとろで。喘ぎ声も凄くて。中なんかもう、すっごくて」
「…淫乱か」
「ど淫乱です。だから、僕じゃなくても…」
「………」
先生が僕をじっと見てる。
なんだか視線が痛くて。
「え、っと、その」
「じゃあ、試してみるか」
「え」
「そうだな、藍川はダメだな。村崎にするか。あいつらが進展したとは聞いてないから、溜まってるはずだな。お前にするようにして挑発すれば、勃つだろう。それで挿れてみれば俺が淫乱かどうかはっきり」
「嫌です!」
たまらなくて僕は先生にしがみついた。
「やめてください!ごめんなさい、…ごめんなさい」
「お前が始めた話だ」
胸がぎゅっと締め付けられて、苦しい。
嫌だ、そんなことを考えていたのは確かに僕だけど、先生の口から聞きたくない。
「ごめんなさい、ごめんなさい」
先生にしがみついて何度も繰り返した。
「ごめんなさい、嫌だ、先生、ごめんなさい」
先生が大きく息をついて僕の腕を解いた。
そして向きを変え、僕の足に跨るようにして向き合う。
「ごめんなさい」
先生の腕が僕の頭を包み込んで抱きしめられる。
「…泣くな、ばか…」
言われて、僕は自分が泣いていたことに気付いた。
「ごめんなさい」
「もういい。謝るな、泣くな」
僕もぎゅっと先生に抱きついた。
「僕、頑張りますから。先生を満足させられるように。だから」
捨てないで。
「白木!」
先生が僕の頭を掴んで上を向かせる。
「気付かなくて悪かったが、何をそんなに考えているんだ」
「………」
「俺の淫乱さが原因のようだが」
「………」
僕は迷ってしまった。また怒らせるかも。
「どうした、言ってみろ」
「……」
こんな子供みたいな嫉妬を先生に知られたくない。
もし他に先生にいたら、こんな子供みたいな僕に先生は愛想をつかすに決まってる。
先生はまた大きなため息をついた。
そして僕の頭に額をコツンとぶつけ、瞳を覗き込まれる。
全て見透かされるような、先生の瞳。
「先生が大好きです」
先生が思いっきり眉を寄せる。
「今はお前の気持ちの話をしているんじゃない。俺の話だろう。わかった、俺も好きだ。約束よりずっと早いがお前がそんななら、いくらでも言ってやる」
イラついたように大事な言葉を吐き捨てる。
言葉がかわいそうだ。
突然頬をつままれ、左右にぐいっと引っ張られた。
「笑うな」
「いひゃい、へんへい」
訴えると解放された。
「真面目な話をしているのに、なぜ笑う」
「だって、先生があまりに短気で」
また引っ張られる。
「だから、笑うなと言ってる。人が真剣に心配して話してるのに」
「しゅいまへん」
先生は僕のほっぺたから手を離すと、湯船から出た。
「くそっ。これ以上いたらのぼせる。お前も出てこい、外で話す」
そう言いながらさっさと出て行ってしまった。
残された僕は、ぶくぶくと湯船に沈み込む。
失敗したなあ。
こんなつもりじゃなかったんだけど。
「白木!早くしろ」
先生の怒鳴り声が聞こえた。
「はーい」
お風呂でイチャイチャしたかったのは、本当なのにな。
先生をすっかり怒らせてしまった。
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