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第10話 嘘と嘘 3

 インターホンを押すと、すぐにドアが開いた。 「明日夏。どうした」  拓海の顔を見た瞬間、違和感を感じた。  拓海の下唇に切れた跡がある。  僕は自分の唇の端に指をあてて問うた。 「拓海こそ、どうしたのここ」 「あぁ、思い切りドアにぶつけちゃって」  ──嘘だ。  そう思ったけど、僕は「そっか」と笑った。  もしかしたら本当に、ぶつけたのかもしれない。   でもきっと、櫂に殴られたような気がしてならない。  櫂にも何も訊いていないから、二人がどんな話をしたのかも分からないけど。 「上がったら?」 「ううん、これから用事あるから大丈夫。この間言ってた本、持ってきたんだ」  僕はバッグから一冊の文学書を取り出した。前に拓海に貸す約束をしていたのを、ふと思い出したのだ。 「明日どうせ大学で会うんだから、わざわざ持ってきてくれなくても良かったのに」 「近くまで来たから、ついでに」 「ふぅん。ありがとう」  どうやら拓海も、あのことには蓋をして鍵もかけたらしい。  それは自分の意思か、誰かの指示かは知らないけど、それを問い質すことはしない。  だって僕らは親友だから。  拓海も櫂も僕も、演技をする。  気付いているけど、気付いていないフリをする。  この調子だと、真央も演技しているのかもしれないな。あの日、僕が拓海に体を触られていたこと、実は気付いてたりして。    ──ずっとこの先も変わらず四人でいるためならば、僕らは平気で嘘を吐く。   「拓海」 「ん、何?」 「僕たちはずっと、このままでいるよね?」 「なんだよ急に。あぁ、そういえば最近もそんな話したな。うん、ずっと変わらないと思うよ」  僕は、ますます口の端を上げてみせた。         END*

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