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第9話 嘘と嘘 2*
櫂が足を動かす度、ギッ、ギッと木が小さく軋む音がする。
急にその軋む音がより一層大きくなったので、僕は顔をしかめた。
いつも僕が気をつけて足を置くようにしている、上から三段目の木だ。老朽しているのか分からないが、足の置き所が悪いと耳障りな音がする。黒板を引っ掻く音や自転車の大きなブレーキ音などと同じくらい、僕にとっては不快な音だ。
「あ、悪いな」
「ううん、そこ、いつも変な音するんだ」
「そっか」
僕のしかめっ面を見た櫂は短く言って、隣に同じように寝転んだ。
いざこうなってみると、ちょっと恥ずかしい。
でもこっちの気持ちなんてお構いなしに、櫂は枕に隠れている僕の顔を持ち上げ、唇に噛み付いた。まるで手品のように、いつの間にか着ていたシャツを脱がされてしまう。
櫂の息も僕の息も、どんどん上がる。
櫂の野獣みたいにこちらを射抜く目は、僕の心も体もトロトロに溶かした。
仰向けにされると、足の間に櫂の膝が入り込んでくる。膝を何度か前後に動かされると、あっという間に僕の中心は勃ち上がった。
「すごいな。この前よりも反応してるじゃん」
「ん……だって、櫂がそんな風に……触るから」
「もっと触ってやるから、声、聞かして」
「……ッ」
──違う。櫂じゃない。
あの時、寝ている僕の体に触れたのは櫂じゃない。
櫂はさっき、梯子の上から三段目に普通に足を掛けた。
なぜならそこが、より大きく軋むとは知らなかったからだ。
あの時の人物が梯子を下りて行く時、音は鳴らなかった。
なぜなら、そこを飛ばして下りたから。
梯子に不具合があることを知っていたのは、僕の家に何度か訪れたことのある人物。
あの日、僕の体に触れたのは、拓海だ。
僕の頬が濡れて、目を開けた。
それは櫂の額から落ちた汗だった。
櫂は慌ててその汗を拭って笑った。
「あぁごめん。俺すげぇ汗かいてる」
「……櫂の汗だったら、嫌じゃないよ」
「……めちゃくちゃにしたくなるから、煽るのやめろよ」
「いいよ。めちゃくちゃにして」
櫂は熱っぽい瞳で見つめながら、昂りの先端を僕の後孔にあてがい、少しずつ僕の中に押し入ってきた。
「はっ……ん──……」
櫂の腰に両足を巻き付け、櫂の熱を奥まで感じる。
何度も意識が飛びそうになるくらい、それは甘美で穏やかな時間だった。
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