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05.昨日の記憶(5)

(リュシーさんか……優しそうな人だな……)  一人になったジークは、安堵の息をつきながら、改めて室内を見渡した。  8畳ほどの簡素な部屋には、ジークが横になっていた大きめのベッドと、その横に、数段の引き出しのついたサイドテーブルが置いてあった。その上には、リュシーが先ほど運んで来た水差しとグラスが乗っている。  他にあるものと言えば、リュシーが出て行った出入り口近くの壁際に、整然と積まれたいくつかの木箱と、その上に乗せられた大小様々な麻袋――。  それを何気なく目で辿っていると、うち一つが見慣れた帆布の(かばん)であることに気がついた。  自分が使っている物よりも幾分きれいに見えるけれど、使い古されてくったりとした様相は変わりなく、何より蓋の端にはしっかりと〝Siegrid(ジークリード)〟との刺繍(ししゅう)が施されていた。間違いなく、ジークが持参した物だった。 (そういえば、あの手紙……)  そこからふと思い出したことがあり、ジークはおもむろにベッドを下りた。  ずれかけたストールを直しながら、自分の荷物の傍に行き、袋を開ける。しかし、そうして中を探ってみても、目的のものは見つからなかった。 「あれ……?」  そこでようやく、視界の端に入った窓から――遮光カーテンの隙間から、明るい陽光が差し込んでいることに気が付いた。  いつのまにか夜が明けている。 「え……え?」  ジークは窓際まで歩み寄ると、勢いよくカーテンを開けた。 「……っ」  眼前を真っ白く塗りつぶすかのようなまぶしさに、思わず顔の前へと手をかざす。  少しずつ目が慣れてくると、そこにはまるで見覚えのない景色が広がっていた。 「え……、ていうか俺……、いつ……どうやって、ここに……?」  呟くと、背筋を冷たい汗が伝った。  ジークは改めて記憶を辿った。昨日の、特に森に入ってからのことを必死に思い出そうとした。  けれども、辛うじて引き上げられたのは、あの不思議な声を聞いたこと――そしてそれに自分が答えてしまったこと、それから身体に異変が起きて、やがて立っているのもやっとになり、 「あ、あの時……俺――」  そしてすがるように取り出した、あの封書のことだけだった。    記憶はそこでぷっつりと途切れていた。  当然だ。その直後には、ジークは意識を手放してしまっていたのだから。

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