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05.昨日の記憶(4)

 *  *  *  ジークは思わず顔をしかめた。  一瞬閃いた気がした記憶の断片は、結局何にも結びつかなかったが、そのわりにもやもやとした余韻のような物を残し、それが妙に不安を煽った。  それを振り払うように頭を振ると、 「あ、すみません。不躾でしたね」  熱を測ろうと額に手を当てていた青年が、申し訳なさそうに身を引いた。 「あぁ、いや……」  はっとしたジークは慌てて言い繕おうとしたが、青年は何を気にするふうもなく、「とりあえず、熱はないようで良かったです」と、ただにこりと笑って頷いた。 「あ、俺、リュシーです。何かあったら呼んでください。隣の部屋にいますので」 「リュシー、さん……」 「はい。以後よろしくお願いします」  リュシーと名乗った青年は、そのまま軽く会釈を残して踵を返す。  その背に、今更ようにジークは声をかけた。 「あ、あの、すみません、ジークです。ジークリードと言います。えっと、ここは……。確か俺、アンリさんと言う、魔法使いの先生を探してて――」  じっと返事を待つジークに、リュシーは「ああ……」と小さく息を吐く。 「いまちょっと出かけています。夕方には帰るとのことです」 「え……じゃあ」 「はい、ここがその〝魔法使いの先生〟の家、で間違いありませんよ」  どこか皮肉めいたその言い様は気になったが、ひとまず目的地には無事辿り着けたようでほっとする。  ジークは気持ち表情を引き締め、深く頭を下げた。 「ありがとうございます!」  突然かしこまったように言われて、リュシーはぱちりと瞬いた。けれども、次には「いえ」と笑って部屋を出て行った。

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