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06.リュシーの問診(2)

「俺が拾って渡しました」  リュシーは言葉少なにそう言うと、小さく首を傾げた。 「余計なことでしたか?」 「あっ、いえ! むしろ助かりました」  ジークは慌てて首を振り、それから不意に破顔する。 「もともと、お世話になる魔法使いの先生に渡して下さい、とのことだったので」 「……そうですか」 「拾ったってことは、俺が落としたんですよね。良かったです、なくすようなことにならなくて」  ジークは少しだけはにかむように言って、頭を下げた。  リュシーは瞬き、僅かに眼を細めた。 「っていうか……本当に覚えてないんですね」 「え?」  リュシーの呟きは小さかった。  はっきり聞き取れなかったジークは問い返したが、そこに返されたのは別の言葉だった。 「身体は大丈夫ですか? 大丈夫そうなら、お茶にしましょう」  *  *  *  案内されるままに、アトリエを後にして、向かった先はリビングダイニングだった。  アンティーク調の家具が配置された明るい部屋のダイニング部分に、丸いテーブルと椅子が置かれている。ベルベット調の大きなカウチソファが置かれたリビング部分は一部外へと張り出しており、天井も壁もそのほとんどがガラス張りとなっていた。そこから一望できるのは、森の鮮やかな緑が美しい絵画のような景色だ。  ダイニングテーブルに着くよう促され、ジークは無意識に巡らせていた視線をそちらに戻す。  テーブルの中央には、ハーブとおぼしき植物の植えられた小さな鉢が置かれ、その横にはメモ用紙の束、そして一本のペンが立ててあった。 「ハーブティーですけど、良かったですか?」  キッチンから戻ってきたリュシーに声を掛けられ、ジークは慌てて顔を上げる。  すぐにこくこくと頷けば、リュシーは持っていたトレイからティーポットとカップを二つ天板に下ろし、早速それを注ぎながら、確認するように言葉を継いだ。 「本当に身体はなんともないですか?」 「え……あ、はい。このとおりです」  ジークは気持ち胸を張って笑った。  リュシーはその姿をまじまじと眺め、それから小さく頷いた。 「では、ちょっとメモらせて下さいね」  ソーサーに乗せたカップの一方をジークの前へと差し出し、リュシーは傍らにあったメモ用紙とペンを取る。

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