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09.あてられたのは(2)

 *  *  *  アンリは心持ち飛行スピードを上げた。  その眼前に、ひらりと一枚の白い羽根が飛んでくる。  僅かに顔を逸らせてそれを避けると、今度は前方に大きく翼を広げながら飛翔する人影が目に入った。 「――ラファエルか」  呟きながら目を細め、そのまま一気に距離を詰める。 「やぁ、アンリじゃないですか。仕事ですか?」  隣にさしかかると、ラファエルと呼ばれた男がアンリに気付く。  ラファエルは白金色のつややかな長髪をなびかせながら、金色に煌めく瞳に柔らかい笑みを滲ませた。  けれども、アンリは問われたことには答えず、 「お前こそどうした。天界()に帰省中じゃなかったのか」 「あぁ、ええ……そうなんですけど。ギルベルトが……」 「あの低脳な悪魔(阿呆)とまだ付き合いがあるのか。お前も物好きだな」  吐き捨てるように言って、さっさと箒の速度を上げた。 「そこが可愛いんですよ」  アンリの速度に合わせようと、ラファエルが翼をはためかせる。苦笑気味に言いながらも、その表情は満更でもなさそうだった。  アンリはやはり何も答えず、更に速度を上げた。 「で……お前はどこに向かっている?」  詳細を聞くつもりはなかったが、無言のまま併翔されると問わずにはいられなくなる。  アンリは飛行速度を落とすことなく――どころか、むしろ上げているのに――それにずっとつかず離れずで飛翔するラファエルを一瞥した。  ラファエルは一つ瞬き、それからにこりと微笑んだ。 「アンリ(あなた)の家です」

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