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♥09.あてられたのは(3)

 *  *  *  ジークの上に影を落としている男の名はギルベルト――。  アンリが帰路で出会った、ラファエルという天使が探している悪魔()だった。  ギルベルトはジークの上に跨がるようにして乗り上げ、急くように服の合わせを左右に開いた。  さらされた素肌――胸元から、ふわりと甘い香りが舞い上がる。  ギルベルトは無意識に舌を覗かせながら、誘われるように顔を近づけた。 「っ、ふ……っ」  味見でもするかのように、心臓の辺りを舐め上げると、眠っているはずのジークの口からくぐもった吐息が漏れる。  ギルベルトは心なしかぎらついた目を細め、一般的なそれより長く尖った爪を胸元へと滑らせ――そして不意に突起を引っ掻いた。 「っ、あ!」  びくりとジークの身体が跳ねる。短く漏れた嬌声の(のち)、熱を逃がすように呼気が吐き出される。  ギルベルトは一瞬ジークの顔を見て、それから再び胸へと視線を戻した。慎ましく色づいた小さな尖りは、触れた側も、触れていない側も、既にツンと勃ち上がっていた。 「美味(うま)そうな匂い……」  身体から立ち上るそれも、発情してすぐの状態からすれば随分弱いものの、それでもギルベルトが触れる前に比べればずっと濃いものになっていた。  ギルベルトは匂い――特にその手の――に敏感だ。例えばリュシーが気にした隻眼の狼よりも更に簡単に煽られ、すぐに歯止めが効かなくなる。  そもそもの奔放な性格も手伝って、まずそれを制しようという意識がないのもそれに拍車をかけていた。 「あっ……ぁ、んん……っ」  一方の突起を爪で挟み、同じように先端の尖った舌先で他方をつつく。  ジークの声が次第に熱を帯びていく。匂いもいっそう深みを増した官能的なものになり、味覚がもたらす肌の味まで、癖になるような甘味を滲ませ始めている気がした。  濡れた突起に舌を絡めて、時に軽く歯を立てる。爪で躙っていた側も強めに引っ張り、ジークの胸が浮き上がるのを眺めながら、ギルベルトはどこか狂気じみた笑みに口端を歪ませた。 「ぁ、あぁっ……あ、ぃっ……!」  じゅっと水音を立てながら(すす)るように吸い上げる。かと思うと、犬歯を尖りに食い込ませた。  ほのかな血の香りが鼻孔を擽る。  その余韻に浸りながら、胸元から首筋へと、舌を押し付けたままゆっくりと舐め上げていく。次にはまた下方へと下がり、再び突起を口内に含んだ。  いまだ意識は夢の中であるはずなのに、身体への刺激があるたび、ジークは悩ましいように眉根を寄せる。  どこからともなく香り立つ、中毒性のありそうなそれはギルベルトの体内を直接侵してくるようだった。 「やっべ……理性飛ぶ」  ギルベルトは顔を上げ、唾液に濡れた口元を拭った。気がつくと、突起を囲むあわい色付きにもうっすらと歯形が付いていた。 「あ……っ、もっと……」  愛撫が途切れたのに焦れたのか、ここにきて、ジークの口から先を強請るような声がこぼれた。  特に覚醒したわけでもないようなのに、ジークはうわ言のように同じ言葉を繰り返す。 「欲しい……もっと、欲し――…」 「……っ」  喉を鳴らしたギルベルトの下で、ジークの腰が艶めかしく揺れる。  服越しに一瞥するだけで、ジークのそれがすっかり昂ぶっているのが分かる。どころか、そこはすでにぐっしょりと濡れているようにも見えた。  ギルベルトの目線の先で、きつく押し込められている状態がもどかしいみたいに、ジークは自ら下腹部へと手を伸ばした。

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