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♥【閑話】お菓子をあげるから/ラファ×ギル(9)
……嬉しい。
あなたは滅多に僕の名前を呼んではくれないから。
だから本当に嬉しいよ。
実感しながら、僕は再び入り口を開いていく。
「っ、や、ぁ、あ……っ」
内壁を引き摺るようにして隘路を進めば、当然のように彼の腰が前方に逃げようとする。
隙間ができればいっそう距離を詰め、僕はじりじりと繋がりを深くしていった。
「もう逃げないんですか? ――ギル」
やがてすっかりうつ伏せてしまった彼の上に覆い被さり、静かに囁いた。
「逃げてもいいんですよ……?」
逃げる余白も、今の彼にはそんな余力もないのを知っていながら、あえて煽るようにくすりと笑う。笑みを滲ませたまま、不意に彼の手首の拘束を解いた。
「あ……?」
はらりとロープが傍らに落ちる。拍子抜けしたような声を漏らした彼が、確かめるよう、自分の手首を見上げた。
痺れているのか、おずおずと引き寄せられる腕に合わせて、彼の上体が僅かに浮いていく。
それを待っていたように、僕はその下に両腕を差し入んだ。微かに震える彼の肩を逆手に掴み、彼の襟足に鼻先を寄せる。
「……!」
その瞬間、はっとしたように彼の身体が強張った。
けれども、まぁ僕は当然のようにそれに気づかないふりをして、ただ予定通りに淡々と、彼の背にぴったりと胸板を重ね、抱き締めるように腕に力を込める。
「そ、それ、嫌だ……!」
とたんに身を捩ろうとしても後の祭りだ。
こうしてしまえば、彼はもう僕のなすがまま――。僕は羽交い締めるようにしてその身体を押さえ込み、焦る彼の項に優しく口付ける。
そしてそっと囁いた。
「――嘘つき」
同時に、その身を一気に突き上げた。
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