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12.自覚と認識(6)

 *  * 「体調(からだ)はどうだ。何か違和感などはないか」  円卓(テーブル)の向かいに腰を下ろし、リュシーが注いだばかりのハーブティを飲みながら、アンリが広げたのは使い込まれた一冊のノート。  そこに記されていたのは、昨日、ジークがリュシーから受けた問診の結果とその後の詳細、それから何かのレシピのようなもの……?  使われている文字は、一見見慣れないものだった。魔法使い特有の言語なのかもしれない。  ジークにとっても初めて目にするものだったが、意外にもジークにはそれが読めてしまった。知らない文字だという認識でありながら、何となくではあるけれど、書かれている内容が理解できたのだ。  そのせいで余計紙面から目が離せなくなり、反応が遅れた。 「聞いているのか」 「あっ……は、はい。だ、大丈夫です」  慌てて顔を上げると、アンリがジークを冷ややかな眼差しで見つめていた。  その目が僅かに細められ、再び手元のノートに落ちる。 「……読めるのか、これが」 「え……?」 「ああ、一応は魔法使いの血も覚醒させたとあったな」  それにしては何の気配も感じられないが。と、独りごちるように言って、アンリは改めてジークの顔を見た。  とたんに空気が張り詰めた気がして、思わずジークは姿勢を正す。  昨日はそう感じる余裕もなかったけれど、見れば見るほどアンリの顔立ちは美しく、佇まいにも品があった。背に流れる朱銀の長髪は絹のように滑らかで、暗朱色の瞳を縁取る睫毛も繊細で長い。見るからに田舎から出てきたばかりの、どこにでもいそうな自分とは何もかもが違って見える。  緊張する傍ら、ぼんやりとそんなことを考えていたジークに、アンリは淡々と説明を始めた。 「まず、昨日のような……ここに来た日のようなことになるのは、通常なら次は一月(ひとつき)後――」 「はい……ひとつ……。――――って、えぇっ!?」  アンリの言葉が、遅れて思考回路に辿り着く。  ジークの背筋が、弾かれたように更に伸びた。

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