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12.自覚と認識(5)

「聞かない方がいいと思いますよ」 「え?」 「知らないなら、知らないままの方が。まぁ……いずれ分かるでしょうけど」  リュシーは小さく嘆息し、拭き終わった植物から顔を上げた。 「そ……そうですか」  そう言われると、またしても何も言えなくなってしまう。ジークはぱちりと瞬き、カップの残りに口をつける。 (まぁ……いずれ分かるって言うなら……)  大人しくそれを待っていればいいか。  ハーブティを飲むにつれ、少しずつ気持ちも緩んでくる。  ジークはふう、と息をつき、改めてリュシーの姿に目を遣った。  青い髪に白い肌。髪と同色の瞳とそれを縁取る長いまつ毛。肩先で切りそろえられた髪が、動きに合わせてさらさらと揺れている。特に小柄ではないけれど、体躯は華奢だ。 「……きれいですね。それ……足首の」  ジークはダイニングの椅子に座ったまま、おもむろにリュシーの左足首を指差した。そこにはめられていたのは、ガラス細工のような透き通った材質の朱色のリング。 「あぁ……それはどうも。……こんなの、単なる足枷ですけど」 「え?」 「いえ、何も」  声音を落とされ、聞き取れなかった言葉に束の間疑問符を浮かべつつも、「きれいだなぁ」とジークは素直に顔を綻ばせる。見惚れるように瞳をきらきらと輝かせ、その朱色の足枷(アンクレット)を眺めていたジークのカップは、とっくに空になっていた。  緩んだ空気。人懐こい笑顔。  リュシーの入れたハーブティの効果すら、ジークには強めに現れるのかもしれない。

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