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12.自覚と認識(4)

「あの……俺、大丈夫なんでしょうか」 「何がですか?」 「き、昨日俺……アンリ……先生に触れたとたん、何か変な感じに……」  カップに落としていた視線をおずおずと上向ける。傍らに立ったままのリュシーの顔を見遣ると、 「ああ……大丈夫だと思いますよ。……今は」 「今は?」 「はい、今は」  彼は少しだけ考えるような間を挟みながらも、きわめてあっさり頷いた。  そんなリュシーの反応に、何となくそれ以上は問い返せなくなり、ジークは辛うじて「そう、ですか……」と答えたものの、あとは黙ってカップを傾けるしかなかった。  *  *  *  テーブルの上には、カップと揃いのポットと、籠に入れられた焼き菓子が置かれている。アンリが座るのだろう場所には、ジークのと同じカップとソーサーが置かれていた。 「あ、そうだ、リュシーさん」 「……なんですか」  思い出したように声を掛けると、リュシーはジークを見ることもなく淡々と答えた。  外へと一部張り出したリビング――サンルームのようになったそこには、いくつもの鉢植えの植物が置かれている。リュシーはその手入れをしているところだった。 「アンリ先生の、あの作業……仕事部屋? の……」 「アトリエですか?」 「あ、アトリエ……に、置かれてる鳥かご、なんですけど」  目の前にある手のひら大の葉を、一枚一枚柔らかな手巾で拭いていたリュシーの手が、一瞬止まった。けれども、その動作はすぐに再開されて、 「鳥かごが?」 「あ、えっと……昨日、中に何かいたような気がしたんですけど……さっき見たら空っぽだったので……。もしかしたら、俺の見間違いだったのかなって」  先刻、リュシーに連れられ、アトリエを通り抜けた時も、自然と鳥かご(それ)が目に留まった。銀細工のスタンドに吊された、扉のない華奢な鳥かご。止まり木に乗るものはなく、確かに中は空だった。

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