67 / 146
12.自覚と認識(3)
* * *
(信……じられない……っ)
もう何度同じ言葉を繰り返しただろう。
自分の身に起こっていることにまるで現実味がない。ここに来てまだ数日しか経っていないのに、理解し難いことが起こりすぎている。
突然同僚に襲われかけただけでもわけが分からないのに、初日に意識のないまま初対面のアンリに抱かれ(たらしいと聞き)、それを受け止める間もなく、翌日 には意識のある中であんな……。
しかもその後処理を、一度目はリュシーが、二度目はリュシーの指導のもと自分ですることに……なんて、
(は、ずかしすぎる……)
リュシーに案内されるまま、昨日と同じリビングダイニングで何とか朝食を済ませたジークは、結局堪えきれず天板に突っ伏してしまう。
ゴン、という音がして、額が少々痛んだけれど、そんなことを気にする余裕はない。
(って言うか、特異体質って……何……?)
断片的に覚えているアンリの説明といい、リュシーの言葉といい、一応何度も思い返してはみたけれど、それ以上のことは何もわからなかった。
どうにか整理しようにも、増えるのは点ばかりで全く線にならないのだ。
「どうぞ」
抑揚の乏しい声に続いて、カチャリ、と傍で音がする。
額 を軽く擦 りながらおずおずと顔を上げれば、そこにはふわりと湯気を立ち上らせる、真っ白なカップとソーサーが置かれていた。
「ありがとうございます……」
顔だけでなく、新たに打ち付けた額 も赤くしたまま、それでも素直にカップを手に取り、引き寄せる。火傷しないよう気を付けながらひとくち口にしてみると、爽やかな柑橘系の香りが鼻に抜けた。
リラックス効果があるのだろうか。自然とほっと息が漏れて、肩からも少し力が抜ける。昨日とはまた違うハーブティだった。
「ご主……先生ももう少ししたら来られますので」
先生。アンリのことだ。
リュシーのその言葉に、ジークの身体が僅かに強張る。
ともだちにシェアしよう!