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12.自覚と認識(3)

 *  *  * (信……じられない……っ)  もう何度同じ言葉を繰り返しただろう。  自分の身に起こっていることにまるで現実味がない。ここに来てまだ数日しか経っていないのに、理解し難いことが起こりすぎている。  突然同僚に襲われかけただけでもわけが分からないのに、初日に意識のないまま初対面のアンリに抱かれ(たらしいと聞き)、それを受け止める間もなく、翌日()には意識のある中であんな……。  しかもその後処理を、一度目はリュシーが、二度目はリュシーの指導のもと自分ですることに……なんて、 (は、ずかしすぎる……)  リュシーに案内されるまま、昨日と同じリビングダイニングで何とか朝食を済ませたジークは、結局堪えきれず天板に突っ伏してしまう。  ゴン、という音がして、額が少々痛んだけれど、そんなことを気にする余裕はない。 (って言うか、特異体質って……何……?)  断片的に覚えているアンリの説明といい、リュシーの言葉といい、一応何度も思い返してはみたけれど、それ以上のことは何もわからなかった。  どうにか整理しようにも、増えるのは点ばかりで全く線にならないのだ。 「どうぞ」  抑揚の乏しい声に続いて、カチャリ、と傍で音がする。  (ひたい)を軽く(さす)りながらおずおずと顔を上げれば、そこにはふわりと湯気を立ち上らせる、真っ白なカップとソーサーが置かれていた。 「ありがとうございます……」  顔だけでなく、新たに打ち付けた(ひたい)も赤くしたまま、それでも素直にカップを手に取り、引き寄せる。火傷しないよう気を付けながらひとくち口にしてみると、爽やかな柑橘系の香りが鼻に抜けた。  リラックス効果があるのだろうか。自然とほっと息が漏れて、肩からも少し力が抜ける。昨日とはまた違うハーブティだった。 「ご主……先生ももう少ししたら来られますので」  先生。アンリのことだ。  リュシーのその言葉に、ジークの身体が僅かに強張る。

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