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12.自覚と認識(9)
「どうぞ。これで多少は頭がクリアになると思いますよ」
「あ……ありがとうございます」
勧められるまま、ジークはカップに口を付けた。
乾いていた喉が潤うだけでも心地いい。それだけでなく、確かに頭の中のもやが薄らいだような気がした。
「何が一番引っかかってるんですか? 口に出すことで整理できることもあるかもしれませんし、よろしければ」
「あ……えっと……まず、俺が淫魔だってことが……」
「そこからですか」
「だ、だって……淫魔って、要するに……本能的に人肌を求める種族……ってことですよね」
「本……。……まぁ、間違ってはいないですけど」
(……物は言いようだな)
そんなジークの反応に、リュシーは呆れたような感心したような心地になった。
なるほど、この青年は見るからに田舎者ではあるけれど、品がないわけではないらしい。
確かに礼節は弁えているようだし、明らかに年下に見えるだろうリュシーにも敬語を使ってくれる。
ただ、年齢――25歳前後ではあるはず――の割に性的なことにはあまり免疫がないのだろう。経験自体も乏しいに違いない。もしかしたら未経験 かもしれない。
何かにつけそういった類いの言葉を恥ずかしがるし、それは言うも言われるも変わらないようだった。……淫魔の血を持っているくせに。
(マジご主人とは全然違う……)
リュシーは持っていたポットをテーブルに置くと、残っていたアンリのカップや焼き菓子の入っていたかごを引き寄せながら、淡々と続けた。
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