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12.自覚と認識(10)

「まぁでも、そのあたりはもう、身をもって知ったでしょ。特に二度目は意識があったわけですし」 「そ……それは、まぁ……」  さらりと告げれば、たちまちジークの顔が赤くなる。  リュシーは密やかに息をつき、それからにっこり微笑んた。  「発情期だって、通常はひと月に一回って話でしたけど、もしかしたらもっと先かもしれませんよ。2月(ふたつき)3月(みつき)に一回、とか。特にあなたの場合、いまは相手が相手ですし」  逆にそれより早い可能性もなくはないけれど、と付け加えなかったのは、アンリが言わなかったことに加えて、これ以上悪戯にジークを不安にさせるのもどうかと思ったからだ。  ……フォローもケアも基本的にはリュシーに丸投げされるので、単に面倒だったという理由もある。 「相手が相手……」 「あの人……アンリはあれでもちょっとすごい人なので」  性格には(なん)ありすぎだけど。……いや、俺からすれば難しかないけど。 「まぁ一応、強制的に覚醒されたせいで不安定だったってことなので……今後はきっと安定しますよ。先生もそう言ってたじゃないですか」  それも本当に当てになるのかは知らねぇけどな。 「安定……安定しても、発情期は」 「ありますね」 「あ、るんですよね……やっぱり」 「そういう種族ですから」 「そ……それが信じられないんです……まだ……」  結局またそこかよ。往生際の悪いやつだな。  あれだけ俺もいる部屋(アトリエ)であんあん言っておいて……。 「大丈夫ですよ。先生も同じ屋根の下にいるわけですし、何かあれば俺も協力しますから」  ……どうせそれも俺の仕事にされるんだし。  嫌でも逆らえないんだから仕方ない。  ちょいちょい吐き捨てるような心の声を挟みながら、それでもリュシーは笑顔を絶やさない。絶やさないまま、最後に「とりあえず、頑張ってみましょう」といっそう優しく笑みを深めた。  その少女のような微笑みにジークはまんまと癒やされ、慰められて、 「よ……よろしくお願いします」  カップの中身が冷める頃には、ジークの顔色もいくらかましなものになっていた。

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