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♥14.契約魔法のせいで(4)

「ぼっちゃんあれ、迷子だろ。向こうからはお前のこと分からなくなってる。一緒に来たんだよな?」  種族柄、鼻が利くせいだろうか。それともここに来る途中、一方的にその姿を見かけたのか。ともあれ、ロイはリュシーに会う前から、ジークが近くにいることに気付いていたらしい。 「……」  沈黙が落ちると、風の音や葉音に混じって、微かな鈴の音が聞こえてくる。 「少なくとも、あれが聞こえてる間は大丈夫だろ」 「……言っときますけど、これ脅しですからね」 「脅しじゃねぇよ。お願いだろ」 「相手が断れないのを知ってて言うのは脅しと同じです」  先刻、霧の奥へと消えた影のことを思いながら、リュシーは淡々と答えた。 『要はふられたわけ』  そう自虐気味に笑ったロイは、持っていた瓶に蓋をして――くれたかと思うと、それをそのまま呼び出した配下の狼に預けてしまった。人質ならぬ|物質《ものじち》だ。  ことが終わればすぐにでも返してくれると言ってはいたけれど、よく考えたらそれで「お前が気に入ってるから」なんてどの口が言うのか……。  *  *  * 「なぁ、これお前……今まで誰に抱かれた?」  一方の大きな手のひらが、半端に下衣を下ろした後ろへと触れてくる。リュシーは何も答えなかった。  答えなかったからと言って、ロイの手は止まらない。  一切待つことなく唾液に濡れた指にあわいを開かれ、間もなく探り当てた窪みを窺うように躙られる。それがゆっくり中へと潜り込み、更にその本数が増やされるまでに時間はそうかからなかった。  傍ら、ロイは再度訊ねた。 「なぁ。誰だよ、お前をこんなふうにしたの」 「………っ」  指をくわえ込まされたそこから、ぐちぐちとあられもない音がする。リュシーは軽く唇を噛んだ。  ロイの指はリュシーの身体が知っているものより随分太く、隘路は拒むように強く収縮する。そのくせ入口は柔軟に綻んで、誘うようにそれを受け入れようとするのだ。 「ぃ……っ、こ、答える義務は、ない、でしょ……」 「義務はねぇけど……知りてぇんだよ。誰がお前の身体をここまで躾けたのか……」 「|躾《しつ》……そんなの、今更知ってどうす――……っあ、や……! 俺はいい、俺はいいからっ……!」  やるならさっさと終わらせろ。特にあちこち触れなくていいし、服も脱がさなくていい。  そう先に言っておいたのに、ロイはその条件の一部を早々に反故にする。  襟はきっちりと詰められたまま、下も必要最低限に肌蹴られただけだったが、そうしてあらわになった〝前〟には手を這わせてきたのだ。 「触……っ、や、やめ……!」  リュシーは後ろ手に幹へと手をつき、自分の身体を支えていた。  そうしていなければ足元へと崩れ落ちてしまいそうで――。  けれども、ロイは一向に手を|退《ひ》かず、堪えかねたリュシーは片手でその腕を掴んだ。案の定、危うく傾き欠けた身体を、ロイが首筋を食むようにして支え直す。 「何で触っちゃだめなんだよ」  やり方はどうあれ、ロイはリュシーを気に入っていると言った。一緒に楽しもうと言った。  要はリュシーに触れたいのだ。本当ならもっと、耳元から首筋、胸、脇腹も足の付け根も全て、丁寧に愛撫したいと思っていた。  リュシーはぎゅっと目を閉じたまま、ロイの肩口に顔を伏せるようにして呟いた。 「……せないからだよ」 「え?」  問い返したロイの呼気が、リュシーの耳を掠める。  リュシーはぽつりと答えた。

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