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♥14.契約魔法のせいで(5)
「どうせ、……出せないから」
言葉のわりに、どこか他人事のような響きがあった。
ロイは瞬き、ゆっくり顔を上げた。
リュシーは俯いたまま、はぁ、とあてつけるような溜息をついた。
「そういう魔法がかけられてるんですよ」
「は……?」
「…………俺、出すと結構な確率で意識飛んじゃうから」
早い、みたいだし……。
とまでは言わなかったものの、結局は知られたくなかったことまで白状する羽目になってしまった。
仕方ない。
だってこれを言わなければ、きっとロイはやめてくれない。やめてくれないどころか、もっと触れてくるかもしれない。
そんなことになるくらいなら、ここで少々気まずかろうが、はっきり言っておく方がましだ。
「なん、だよそれ……」
「魔法っていうか、ある意味呪いって言うべきかもしれませんけど」
自虐的に、けれども淡々と言いながら、リュシーは僅かに苦笑する。
左足首にはめられている、朱色のアンクレットをそのつもりもなく意識して、
「相手が人形だと面白くないんだそうですよ」
やはり内容にそぐわない軽い調子でそう重ねた。
「――アンリか」
まもなくロイが、確かめるようにその名を口にした。
リュシーは肯定も否定もせず、ただ笑うように微かに肩を揺らした。
「まぁ、だからって別に困ってもいないので……もう慣れましたし」
「慣れたって……」
「大丈夫、相手はできますから」
「……相手、……」
リュシーが今、頑なにこちらを見ようとしない理由も|アンリ《そこ》にあるのだろうか。
思い至ったロイが、ひとまずリュシーの下腹部から手を|退《ひ》くと、リュシーはほっとしたように背後の樹――身体の脇へと手を戻した。かと思うと自分でも体勢を支え直し、「ということなので、続きをどうぞ」とばかりに警戒を解く。……ただし、その目はやはり閉じられたままだ。
「リュシー、俺を見ろよ。お前の目が見たい」
ロイはおもむろにリュシーの頬に触れ、試すように伏せられた瞼を隻眼で見つめた。
「……いやです」
リュシーは端的に言った。
やはりか……とロイは密やかに奥歯を噛み締める。
アンリとリュシーの関係は、切っても切れない関係だと噂に聞いたことがある。
リュシーはアンリの元を離れられない。そしてそんなリュシーの仕事は、アンリの助手――小間使いのようなものだと、それはリュシー本人からも聞いたことがあった。
……だけどまさか、その中に、性欲処理? のような仕事? まで含まれていたなんて。
自分に口出しする権利はないと分かってはいるけれど、正直複雑な心境になる。自分だって、元々貞操観念なんてあってないようなものなのに……。
「……わかった。じゃあ、後ろ向けよ」
微妙な気持ちを抱えたまま、ロイは低く囁いた。
リュシーは躊躇うでもなく、あっさり身体の向きを変えた。
ロイなりに、色々と考えた結果だった。
アンリとリュシーの関係をどこか面白くないと感じながら、リュシーのことをどこか不憫だと思いながら――それでも自分も|後《あと》には引けない。だってこんな機会、そうそうあるものじゃない。
それならせめて、少しでもリュシーが楽になればと、万が一目が開いたとしても、そこに映るものが単なる森の景色であるならまだマシなのだろうと……リュシーの反応から、そう勝手に判断したロイは、後ろを向かせたリュシーの中に、改めて3本目の指を挿入した。
「っ……ロイ、もう、いいですから……っ。どうやったって、あんたのそれは、簡単にはっ……」
「色気ねぇな。俺はお前を人形だとは思えねぇんだから、そこは好きにさせろよ」
三本の指をばらばらに動かせば、必然と空気が混じって水音が増した。
「……っ、意識が、あるうちは……、別に人形とはっ……」
「それとはまたちょっと意味が違う」
「え……っぁ……!」
ロイの指が、癖のようにその場所を探り当てる。すると弾かれたようにリュシーの上体が前方へと傾いた。逃げるようなその動きに合わせて、ロイの耳が捕らえたのは、微かに甘さを帯びた吐息。先刻とは違い、目の前の幹に縋るように手をついていたリュシーの|爪先《つめさき》も、何かを|堪《こら》えるように白くなっていた。
ロイは窺うように目を細め、リュシーの|項《うなじ》にふっと息を吹きかけた。
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