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♥14.契約魔法のせいで(6)

「……。……お前さ、出せないって言ったけど……感じないわけじゃないんだな」  一旦手を止め、また動かしてみる。狙いを定めて、同じ場所を圧迫する。  すると口で答えるより先に、リュシーの身体が跳ねて応えた。 「やっ――…」 「ってことはもしかして……」  |項《うなじ》にかかる青い髪を鼻先でかき分け、あらわにさせた生え際に舌を這わせる。その一方で、リュシーが反応した場所を再度試すように刺激した。 「あぁっ、や、やめっ……!」  とたんにリュシーは背筋を撓らせ、ふるふると頭を振った。けれども、そんな言動とは裏腹に、内壁はもっと欲しいとでも言うようにきゅう、とその指を食い締める。リュシーの腰がゆらりと揺れる。先を望むみたいに粘膜が絡みつく。   「――やっぱりな」  ロイは隻眼を僅かに眇め、掠れた声で囁いた。ぎらついた金の瞳に、いっそう高揚した色が灯る。  中から煽る動きに合わせて、リュシーが吐息を震わせたとき、ロイは不意に手を止め、一気に指を引き抜いた。 「ぁ……っ、……!」  一方的に高められ、途中で放り出されて、もどかしいように戦慄くリュシーの唇。とっさに開きかけた瞼は、けれどもなけなしの理性がすぐに引き下ろした。 「挿れるから、ゆっくり息してろ」  そんな反応に確信を得たロイは、急くようにリュシーの腰を支え、手早く取り出した自身の先端を目の前の窪みに触れさせる。そのままぐっと腰を押し進めれば、僅かに開いていただけの入り口が、ロイの屹立に添って広がっていった。 「いっ……」 「できるだけ、優しくしたいところだけど――」 「べ、つに……優しくなんて、しなくていいですっ……」  リュシーの呼気がひくりと引き攣る。  限界近くまでひっぱられた皮膚から、ぴりぴりとした痛みが走る。  それでもまだロイのそれは収まりきっていない。収まりきっていないどころか、ほんの序盤にすぎないかもしれない。  そう思うと今更怯んでしまいそうになるけれど、例えばいまここでやめろと言ったところで、もうこの発情しきった狼は止まらないだろう。 「あ、ぅ……っ、……」 「唇、噛むな」  ロイはリュシーの顎に触れ、振り向かせるようにして肩越しにその口許を舐めた。  隙間ができればすぐさま舌先を滑り込ませ、絡め取ったリュシーのそれを音を立てて吸い上げる。かと思うと、呼吸すら閉じ込めるように大きく唇を被せて――その刹那、 「んっ、ぅ! ――っ!!」  ロイは片手でリュシーの腰を押さえつけると、半ば強引に自身をその中へと埋め込んだ。  塞がれた口内でくぐもった悲鳴が上がる。  それでもやっと嵩の張った部分が過ぎたくらいで、ロイはいっそうリュシーの身体を引き寄せるようにしながら、最奥を目指して隘路を割り開いていく。 「んん……っ、――!!」  引き裂かれるかのような痛みが断続的に走り抜け、たちまちリュシーの伏せられた瞼の|際《きわ》に大粒の涙が並んだ。それがぽろりぽろりとこぼれ落ちるのを目にして、ロイはようやく唇を離す。舌を伸ばして、その雫を毛繕いでもするかのように丁寧に舐め取ると、すり寄せるみたいにこめかみを触れ合わせ、は、と一つ息をついた。  それから、掠れた声で言う。 「リュシー……大丈夫か」  大丈夫じゃねぇよ……何が優しくしたいだよ!  当然言ってやりたかったけれど、そうするほどの余力がない。  優しくしなくていいと言ったのは自分だけれど、予想以上の衝撃だった。  うっすらと目を開けてみたら、視界は酷くぼやけていた。 「……は、ぁ……も、挿れたなら、早く、終……」  リュシーは再び目を閉じて、続く律動に備えようとする。  目を開けていたら目線の揺れ方でバレてしまうかもしれない。  さっきの衝撃に比べれば、これからされることなんて大したことではないだろう。  努めて身体の力を抜きながら、リュシーは気を取り直すようにそう切り替え――ようとしたのだが、 「いや、まだ全部入ってねぇから」  言うが早いか、ロイは改めてリュシーの腰を掴んだ。今度は両手で――これ以上ないほどがっしりと。

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