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15.霧の中で(17)
「ほら、とっとと飲んで」
リュシーは幾分苛立ったように言いながら、改めてて小瓶を差し出した。
ジークはふるりと一度大きく頭を振って、今度こそそれを受け取った。
「……全部飲んだらいいんですか?」
「そうです。早く」
「は、はい」
急かされるままに蓋を開け、瓶の口を唇に押し当てる。
ゆっくり上向いてこくこくと喉を鳴らしていると、視界の端――リュシーの背後――に見たことのない人物が立っていることに気付いた。
アンリよりもラファエルよりも上背がありそうな、精悍な佇まいの男。
けれども、その頭には獣のような耳があり、背後で揺れているのは……ふさふさした尻尾? そのギャップに思わず目を瞠ると、最後のひと口を飲み込むタイミングを逸してしまった。
「っげほ、……っ」
むせた拍子に、少量の液体が口からこぼれた。
「……何やってるんですか」
呆れ混じりに言いながらも、リュシーが背中をさすってくれる。
「今ので、少しこぼれましたよね」
「……すみません」
ジークは濡れた口許を手の甲で拭い、蓋をした小瓶を差し出しながら、再び小さく頭を下げた。
それを受け取ったリュシーが背後を見遣ると、待っていたように後ろの男がバスケットの蓋を開ける。
「こぼれたって言っても、ほんのちょっとだろ」
「はい。……なのでまぁ、大丈夫だとは思いますけど」
バスケットに空の小瓶が戻される。男はそれを持ったまま踏み出し、ジークの傍へと近づいた。
「……こんなヤツだったっけ」
無遠慮に身を屈め、地面に座り込んだままのジークの顔をじっと見下ろしたのはロイだった。ロイは隻眼を細めて、値踏みでもするかのようにジークの全身をゆっくり眺めた。
「なんでこれに……」
〝これ〟と言われて、ジークは瞬く。
リュシーが隣で微かに苦笑した。
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