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15.霧の中で(16)

 *  *  一歩進むごとに小さく鈴が鳴る。  ラファエルに言われたとおり、彼らの姿が見えなくなったところで、ジークは近場の木の根元に腰を落ち着かせた。  彼らの声は遠くに聞こえるけれど、何を言っているのかは分からないし、それもやがて場所を変えたのか聞こえなくなった。  静かになると、いまだ自分の吐息が熱っぽいことに気づく。ラファエルから離れたことで、ぶり返してきたのかもしれない。  加えて、先刻目にした光景――恐らくはこれから《《何》》をするのかという想像――が頭からなかなか消えない。 「考えない……考えないようにしないとっ……」  でなければ、うっかり引きずられてしまいそうだ。  ジークは振り払うように頭を振って、ゆっくりと深呼吸をした。 「――これ、飲んで下さい」  小瓶を握りしめたまま、立てた膝の間で項垂れていると、ややして視界がふっと陰った。 「リュシー、さん……?」  頭上から降ってきた聞き覚えのある声に、ジークはゆるりと顔を上げる。  ぼやけた焦点を瞬いて合わせると、先に目に入ったのは、眼前に差し出された覚えのある小瓶だった。中には不思議な色合いの液体が入っている。アンリがリュシーに持たせていた抑制剤だ。  ちらりと視線を更に上向ける。案の定、それを持っていたのはリュシーだった。ただしその面持ちは、予想以上に疲弊しているようで……。 (俺のせい……だよな)  絶対そうだ。|ジーク《自分》がはぐれたせいでこんな状態にさせてしまったに違いない。  ジークは思い込み、すぐに「すみません……」と呟いたものの、一方でじりじりと温度を上げる身体の熱が、その眼差しに甘さを滲ませる。どころか、気がつくと口端に誘うような笑みまで浮かべていて、 「しっかりして下さい」 「……! は、はい、すみません……っ」  諫めるようなリュシーの声に、ジークは慌てて手を退き、背筋を伸ばした。  危うく小瓶を通り過ぎ、リュシーの手首の方を掴むところだった。

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