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17.リュシーの独白(1)

「おーい、リュシー!」  蜜の小瓶を返してもらうため、リュシーが慣れない夜空へと飛び立った後、予想に反してロイとはすぐに会うことができた。  昼間鉢合わせした森に差し掛かったところで、地上から名を呼ばれたのだ。リュシーは飛翔を停めて目を凝らした。やがて捕らえた人影が掲げた手の中には、(くだん)の小瓶が握られていた。ロイは「ちょうど良かった」と隻眼を細めて笑った。  月明かりはあっても、森の中にいられたら判別できないかもしれない。そう思っていたリュシーは密やかにほっとして、ふわりとロイの前に降り立った。 「これ、忘れ物」 「忘れ物って……」 「まぁいいから見てみろよ」  翼を消すなり、まずは文句の一言でもと口を開こうとしたら、先んじてそれを阻まれてしまった。  差し出された小瓶を受け取ると、有無を言わせず中を見るよう促され、リュシーは仕方なくそれを注視する。けれども周辺の明度ではよく見えず、それならと月明かりを頼りに目の上に軽く(かざ)してみた。 「あ……」  瓶の中が一杯になっていた。  リュシーが最後に見た時は、もう少し上部に空きがあった。それがいまや、入れすぎなくらいに隙間無くさらりとした液体で満たされていた。 「……まさか、水……」 「何でだよ。ちゃんと霧霞の花の蜜だっての。――残り、集めといてやったんだよ」  まぁ実際集めたのはほぼ部下だが。 「そう……ですか」  再度月に透かして確認してから、リュシーはゆっくりその手を下ろす。  昼間のことといい、この際だからとちくちく小言でも並べてやろうかと思っていたのに、これでは何も言えないじゃないか。  それどころか、何だかよけいな借りができたような気がして、ますます落ち着かない心地になる。  かと言って今更それを捨てられるはずもなく、リュシーは心の中で「最悪」と呟きながらも、形だけは「どうも」と頭を下げた。 「身体、もう大丈夫なのか? 良かったらまた俺が抱っこして――」 「結構です」  それが殊勝な態度に見えたのだろうか。ロイが腕を広げながら一歩間合いを詰めてくる。その分リュシーは後ろに下がり、被せるように即答した。 「しばらく寝たら回復し(治り)ました」 「へぇ……そうなのか」  近づいた分だけ距離をとられる。それをもう一度だけ繰り返したロイは、3度目は試すことなく、ただ僅かに口端を引き上げた。

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