139 / 146

♥19.夢か現か(13)

「ぃ――あぁっ、なんで……!」  突然堰き止められた苦しさに、ひくんと屹立が跳ねる。先へと溜まっていた雫が小さく飛び散る。  引き攣ったように腰が震えて、見開かれた目からはぽろぽろと涙がこぼれ落ちた。 (なんで、こんな……っ)  |堪《たま》らず勝手に手が伸びる。両方の指が切羽詰まったようにリボンを探る。  すぐにでも取りたい。解きたい。  だってもう少しで届きそうだった。自制することをやめれば、今にも|達《い》けるところだったのに。 「あ……ぁ、ぇっ……」  なのにリボンはなかなか緩まない。  端を正確に引っ張れている自信はないけれど、それでも普通のリボン結びならばそろそろ綻ぶはずだ。それなのにその結び目は――どころか、リボンの形自体一向に崩れない。 「何をしている」 「あ……やっ」  なおも必死にリボンに触れるジークの腕を、呆れたようにアンリが掴む。下腹部から引き剥がし、両腕をそれぞれ捕らえて拘束する。 「無駄なことはやめておけ」  潤んで、蕩けて、|眦《まなじり》を赤く染めた双眸が、信じ難いようにアンリを見上げる。  そのリボンには魔法が作用しているのだと、そこでようやく理解した。 「大丈夫だ。お前は別に出さずとも――」 「……え……?」  どこか揶揄するように言われた言葉に、ジークの動きが一瞬止まる。  その隙を突くように、アンリは何も言わずに掴んでいた腕を一気に引いた。 「っ――!!」  声にならない悲鳴が上がる。  これ以上はないと思っていたのに、更に奥へと先端が届く。  行き止まった場所を何度も突かれて、逃げたいように身体が仰け反る。  強い圧迫感に呼吸が乱れ、怖いように背筋が冷えた。そのくせ内壁は嬉しいみたいにアンリのそれを締め付けるのだ。  出さずとも――。  言われた言葉の続きが気になるのに、それを問い返すような余裕もない。 「ひぁっ、あ、や、あぁっ」  律動に合わせて吐息が跳ねる。   力の入らない両腕を捕らえられたまま、何度も最奥を穿たれる。そのたび視界に星が瞬き、口端からは唾液が伝い落ちる。  差し出すみたいにさらした胸の先が硬く凝って、腰の奥へと集まる熱が温度を上げる。ひらひらと揺れる黒いリボンの下では屹立がいっそう|嵩《かさ》を増し、疼くような甘い痛みに唇がはくはくと開閉した。 「い、あぁっ、深……っ、や、こわ、ぃ……っ」  アンリは突き出すように腰を浮かせて、更にジークの腕を引いた。必然とジークの身体も浮き上がり、残された後頭部と肩がシーツに|擦《す》れた。  アンリが動くたび、身体の奥がこじ開けられるような感覚がする。やがて躙られていたそこが次第に綻び、アンリの形に合わせて口を開く――。 「あ、アンリさっ……それ待……っい、いやです、無理……!!」  未知の感覚に総毛立つ。  あふれる涙が止まらない。  けれども、どんなに懇願しても、首を振っても、当然のようにアンリはその手を止めてはくれなかった。  |縋《すが》るように向けた視線がかち合っても、静かに情欲を孕んだ瞳で見つめ返されるだけで、腕を離してくれることも、繋がりを浅くしてくれることもない。  それどころか――。 「――希望通り注いでやる」 「……!」  低く囁くように落とされた声に、ジークの喉から引き絞られるような音が漏れた。  アンリは口端を微かに引き上げ、次には一気にその|環《わ》を貫いていた。

ともだちにシェアしよう!