138 / 146
♥19.夢か現か(12)
|抗《あらが》う意志はあるのに、眼差しはすっかり|蕩《とろ》けている。
次第に頭の中もふわふわとして、いっそこのまま流されてしまえば……と囁く自分が現れる。
どうせ居た堪れないと思うなら、さっさと済ませてしまえばいい。全てを認めて、受け入れて、素直に身を委ねればいいのだ。
その方がきっと早い。そうして本能が満たされれば、さすがに解放されるだろう。
この狂おしいほど甘やかな葛藤から――。
「……っ」
ジークは迷いながらも目を閉じる。
このまま意識を手放してしまえれば、これこそ僥倖なのにと思いながら。
「一つ言っておく」
けれどもそれをアンリが阻む。当然のように。
ジークは際に溜まっていた涙を弾きながら、「え……?」と再び瞼を上げた。
「私は人形を抱く趣味はないからな」
「人、形……?」
アンリはジークの心算を見透かしたように、不意にひらりと指先を動かした。
瞬間、アンリの手の中に現われたのは、細めの黒いリボンだった。ちょうどアンリがいつも髪を束ねているのに使っているような――。
滲む視界でそれを捕らえたジークは、訳が分からず疑問符を浮かべた。
そこでまたアンリの指が小さく動く。
指の隙間からするりと抜け落ちた――かのように見えたそのリボンは、そのままジークの下腹部へと触れて、
「え……っあ?! ぃい……っ」
かと思うと、あろうことかその根元へとくるくる巻き付き、最後に可愛らしいリボン結びを作り上げた。
「ぃ――あぁっ、なんで……!」
突然堰き止められた苦しさに、ひくんと屹立が跳ねる。先へと溜まっていた雫が小さく飛び散る。
引き攣ったように腰が震えて、見開かれた目からはぽろぽろと涙がこぼれ落ちた。
(なんで、こんな……っ)
|堪《たま》らず勝手に手が伸びる。両方の指が切羽詰まったようにリボンを探る。
すぐにでも取りたい。解きたい。
だってもう少しで届きそうだった。自制することをやめれば、今にも|達《い》けるところだったのに。
「あ……ぁ、ぇっ……」
なのにリボンはなかなか緩まない。
端を正確に引っ張れている自信はないけれど、それでも普通のリボン結びならばそろそろ綻ぶはずだ。それなのにその結び目は――どころか、リボンの形自体一向に崩れない。
「何をしている」
「あ……やっ」
なおも必死にリボンに触れるジークの腕を、呆れたようにアンリが掴む。下腹部から引き剥がし、両腕をそれぞれ捕らえて拘束する。
「無駄なことはやめておけ」
潤んで、蕩けて、|眦《まなじり》を赤く染めた双眸が、信じ難いようにアンリを見上げる。
そのリボンには魔法が作用しているのだと、そこでようやく理解した。
「大丈夫だ。お前は別に出さずとも――」
「……え……?」
どこか揶揄するように言われた言葉に、ジークの動きが一瞬止まる。
その隙を突くように、アンリは何も言わずに掴んでいた腕を一気に引いた。
ともだちにシェアしよう!