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♥19.夢か現か(12)

 |抗《あらが》う意志はあるのに、眼差しはすっかり|蕩《とろ》けている。  次第に頭の中もふわふわとして、いっそこのまま流されてしまえば……と囁く自分が現れる。  どうせ居た堪れないと思うなら、さっさと済ませてしまえばいい。全てを認めて、受け入れて、素直に身を委ねればいいのだ。  その方がきっと早い。そうして本能が満たされれば、さすがに解放されるだろう。  この狂おしいほど甘やかな葛藤から――。 「……っ」  ジークは迷いながらも目を閉じる。  このまま意識を手放してしまえれば、これこそ僥倖なのにと思いながら。 「一つ言っておく」  けれどもそれをアンリが阻む。当然のように。  ジークは際に溜まっていた涙を弾きながら、「え……?」と再び瞼を上げた。 「私は人形を抱く趣味はないからな」 「人、形……?」  アンリはジークの心算を見透かしたように、不意にひらりと指先を動かした。  瞬間、アンリの手の中に現われたのは、細めの黒いリボンだった。ちょうどアンリがいつも髪を束ねているのに使っているような――。  滲む視界でそれを捕らえたジークは、訳が分からず疑問符を浮かべた。  そこでまたアンリの指が小さく動く。  指の隙間からするりと抜け落ちた――かのように見えたそのリボンは、そのままジークの下腹部へと触れて、 「え……っあ?! ぃい……っ」  かと思うと、あろうことかその根元へとくるくる巻き付き、最後に可愛らしいリボン結びを作り上げた。 「ぃ――あぁっ、なんで……!」  突然堰き止められた苦しさに、ひくんと屹立が跳ねる。先へと溜まっていた雫が小さく飛び散る。  引き攣ったように腰が震えて、見開かれた目からはぽろぽろと涙がこぼれ落ちた。 (なんで、こんな……っ)  |堪《たま》らず勝手に手が伸びる。両方の指が切羽詰まったようにリボンを探る。  すぐにでも取りたい。解きたい。  だってもう少しで届きそうだった。自制することをやめれば、今にも|達《い》けるところだったのに。 「あ……ぁ、ぇっ……」  なのにリボンはなかなか緩まない。  端を正確に引っ張れている自信はないけれど、それでも普通のリボン結びならばそろそろ綻ぶはずだ。それなのにその結び目は――どころか、リボンの形自体一向に崩れない。 「何をしている」 「あ……やっ」  なおも必死にリボンに触れるジークの腕を、呆れたようにアンリが掴む。下腹部から引き剥がし、両腕をそれぞれ捕らえて拘束する。 「無駄なことはやめておけ」  潤んで、蕩けて、|眦《まなじり》を赤く染めた双眸が、信じ難いようにアンリを見上げる。  そのリボンには魔法が作用しているのだと、そこでようやく理解した。 「大丈夫だ。お前は別に出さずとも――」 「……え……?」  どこか揶揄するように言われた言葉に、ジークの動きが一瞬止まる。  その隙を突くように、アンリは何も言わずに掴んでいた腕を一気に引いた。

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