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【閑話】きりかぶの上で/ラファ×ギル(2)

「ほら、だったら聞かせてください。彼はいったい何なんですか? あなた、この前も手を出そうとしてましたよね? ……出そうっていうか、多少出してましたけど……」 「……知らね」 「知らない? どういうことですか?」  ふいと視線を逸らしたギルベルトの態度に、ラファエルはぱちりと瞬いた。 「知らねぇもんは知らねぇんだよ。俺はただ、あいつから出る匂いに……」 「匂い……。さっきも言ってましたね」 「つーか、お前だって前の……、アンリの家に来た時、その匂い辿ってきたんじゃなかったのかよ」 「違いますよ。あれはあなたのことを見かけたって知り合いに聞いたから……」  ストーカーか!!  ギルベルトはとっさに言いかけた言葉を飲み込んだ。  ここで……こんな状況で、これ以上下手なことは言わない方がいい。  さっきお気に入りの服を容赦なく破られたことを思い出し、多少学習したらしいギルベルトは口を噤んだ。  ……のわりに、迂闊なところは変わりなく、 「でもまぁ、多分あれだ。あいつ、淫魔なんだよ。お前に効かないってので今分かった」 「淫魔?」 「だから、俺様は悪くない」  次には開き直ったようにしゃあしゃあと口にして、ラファエルの眉を僅かに顰めさせる。 「どういうことです?」 「そういう匂いを出して誘ってくんだよ。で、誘われたら基本|抗《あらが》えねぇの。特に悪魔は」 「……なるほど。そういうことでしたか」  ラファエルは納得したように頷いた。  どこか感心したように息をつくと、ギルベルトを抑え込んでいた腕の力が僅かに緩む。 「!」  その瞬間、待っていたようにギルベルトが身体を跳ね起こそうとする。  けれども、直後には再び組み伏せられて、今度は切り株の表面に軽く額までぶつけてしまった。 「いって……! てめっ、くそ、離せよ! 話はもう終わっただろ!!」  喚くように声を上げても、誰の耳にも届かない。近場にはもう誰もいない。もはや誰も助けてはくれない。  ぎり、と骨が軋むほど強く腕を押さえられ、足は両膝を地面につかされているため、踏ん張ることすらろくにできない。 「――それでこんな……」 「……は?」  それでも何とか|足掻《あが》こうとするギルベルトの背後で、ラファエルはすっと目を細める。それからゆっくりと身を屈め、ギルベルトの背中にそっと上体を重ねた。 「ねぇ、ギル。気付いてます?」  ぎくりと動きを止めたギルベルトの耳元で、ラファエルは知らしめるように囁いた。 「あなたのここ、ずっと――」  かたわら、ラファエルは不意打ちのように、他方の手でギルベルトの下腹部をなぞった。

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