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20.束の間の(9)
以前よりも自分の特性を理解したジークは、かえってギルベルトに申し訳ないと思っているくらいだった。一方、ギルベルトは物事を深く考えない。
ジークがヒート中でもない限り、その空気が揺らぐことはなさそうで、結果、彼らは案外気の合う友人になりそうな雰囲気すら醸し出していた。
(……それはそれで面白くないですね)
ギルベルトが笑っていれば自分も嬉しい。
そう思うのも嘘じゃないのに、素直に「お友達が増えて良かったですね」と思えない自分に苦笑してしまう。
「――やぁ、楽しそうですね」
ややしてラファエルは、まるで今来たところだという|体《てい》で二人の前へと踏み出した。
「あっ、ラファエルさん」
先に反応したのはジークだった。
ラファエルは柔らかく髪を掻き上げながら、「話、終わりましたので」とふわりと微笑んだ。
「せっかくゆっくりなさっているところに、不躾なことをしてすみませんでした」
「あ、いえ……大丈夫です」
無駄のない優美な佇まいとその微笑みに、ジークは仄かに目端を染める。滑らかに揺れる|白金色《プラチナブロンド》の髪が、陽光をきらきらと|弾《はじ》いていた。
その横でギルベルトが、「嘘くせ」と即座に吐き捨てる。
ラファエルはあえて天使然とした表情のまま、ギルベルトに目を遣った。
「ギル、まだいたんですね。僕を待っててくれたんですか?」
「は? 誰が」
ギルベルトは「げー」とばかりに舌を出した。
「つーか、てめぇこそ話終わったんならとっとと帰れよ。んで俺さまの菓子を早く買いに行け」
そして横柄な物言いで続けると、持っていた菓子の一つを口へと放り込む。ジークとしゃべっている間もずっと食べ続けていたのだろう。残りは早くもあと一つとなっていた。
「はいはい。まぁ約束ですからね」
ラファエルは慣れたふうに答え、苦笑気味に肩を竦めた。
……仲がいいのか悪いのか……。
この二人の関係性がいまいち見えない。
思いながらも、ジークは会話が途切れた合間に口を開く。
「あの、ラファエルさん」
「はい?」
どうするべきかまだ少し迷いはあったものの、やはりせっかく得られた機会だし、と気持ちを切り替えて言葉を継いだ。
「あの……あの時」
「あの時?」
「その、す、すみませんでした……!」
言うなり、ジークはがばっと頭を下げた。直角よりも更に深く――。
そんな突然の言動に、ラファエルだけでなく半ば背を向けていたギルベルトまでぽかんとした顔をする。
「え……えっと……」
ラファエルはぱちりと瞬き、とにかく顔を上げるようジークの肩に触れた。
「僕、あなたに何かされましたっけ? そもそもあの時って……あの森の中で会った時のことですか?」
言いながら、ラファエルは記憶を辿る。
霧の中でリュシーとはぐれたジークを見つけ、少し話をした。
そしてそれからまもなく、発情の兆候を見せたジークのフェロモンに誘われ、現われたのはギルベルトだった。
その結果、自分がギルベルトを押さえている|隙《すき》に、ジークを逃がして――。
(……あぁ、そのことですかね)
要は、あの時はお世話になりましたという……。
「やぁ、あんなのお互い様ですから……」
そう改めて言われるほどのことでも……自分もあの後悪い目には遭いませんでしたし。
と、僅かに目を伏せ、ラファエルは苦笑気味に肩を揺らす。
「いえっ……だって、どんな理由があろうと……」
促されるまま顔を上げたジークは、けれどもなおもぶんぶんと首を振った。
そして再び深く頭を下げる。その顔を、耳をじわりと赤くして――。
「|ラファエルさん《相手》の合意もなしに、む、無理矢理唇を奪うなんて……! 本当にすみませんでした!」
「――――唇?」
ラファエルとギルベルトの声が重なった。
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