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20.束の間の(8)
「まぁ、仮にそういう|魔法道具《アイテム》があったとして、どうせ使わないのだろう。お前は」
「……さすが。付き合いが長いだけのことはありますね」
「別に知りたくもないがな」
「そうなんですよね。僕は自由なギルが好きなので……」
「お前は趣味だけでなく耳も悪くなったのか」
たった今、別に知りたくないと言っただろうと冷ややかな眼差しを向けられても、ラファエルは一方的に話を続ける。
「だって囲ってしまったら面白くないじゃないですか。そりゃたまには閉じ込めてしまいたいって思うこともありますし、実際やっちゃうこともありますけど……でもほら、やっぱりギルにはギルらしくいて欲しいっていうか……」
「もう帰れ」
「アンリなら分かってくれますよね? あの人は自由だからいいんです。それで例え浮気されたって……いえ、浮気されるのは嫌ですけど、だから僕も気をつけてるんです。できるだけそうならないように……全部阻止できているとは思っていないですけど、でもそれも含めてギルだって気持ちもちゃんとあるので……」
「聞こえないのか」
「そう考えると、淫魔に誘われるっていうのもそれはそれかなって思ったりもするんですけどね。お仕置きする口実にもなりますし。でも頭の中がその相手で一杯になるっていうのだけはやっぱりいただけないなぁって――」
「…………もういい」
いつも以上に(無駄に)饒舌なラファエルに、アンリは無言で片手のひらを翳す。そして、
「菓子を忘れるなよ」
そう平板に告げたかと思うと、そのままラファエルに転移魔法を作用させ、次には家の外へと強制退去させていた。
* * *
「まだ話の途中だったのに……有無を言わせず魔法で追い出すなんて、失礼な人ですね」
突然屋外――それも中空へと放り出され、辛うじて着地したラファエルがぶつぶつこぼしていると、
「わ、本当だ、すごい!」
「だろ? 見ろよこの|艶《つや》やかな羽」
「あ、尻尾も」
「あぁ、尻尾は出したり出さなかったりだけどな」
「そんなこともできるんですか」
「まぁ、体調とかでたまに消せなかったりもするが……。あ、これ言うなよ。尻尾は弱点でもあんだから」
「なるほど……わかりました。内緒ですね」
死角となっている場所から、そんな会話が聞こえて来た。
ギルベルトとジークの声だった。
(|ギル《あの人》、まだいたんですか……)
ラファエルは呆れ気味に溜息をつき、そのままそちらへと足を向ける。けれども、彼らの姿が見えてくる前に、ふと思い立って足を止めた。
「つーか、ジークはしばらくここにいんのか?」
「あぁ、えっと……いつまで、っていうのは俺には分からなくて」
「ふーん……そうなのか」
傍らの壁に背を預け、腕を組みながら、ラファエルはそっと聞き耳を立てる。
(……え? なんですか? ヒート中でもない彼に興味を持ったんですか?)
「まぁいいや。じゃあ、とりあえず近いうちにまた話そうぜ。お前の知らないあんなことやこんなことも、そん時に教えてやるよ」
「あ、はい。ありがとうございます! ……えっと、ギルベルトさん……で良かったですよね」
「ギルでいい」
「ギル……さん」
「さんとかいらねぇよ」
「ギ、ギルさ……ギル……? ぜ、善処します」
(あんなことやこんなことって……いったい何を教えるつもりなんです)
……っていうか、いつの間にそんな仲良く?
気がつくと、妙に親しげに話しているその様相に、ラファエルは思わず閉口した。
(……いいんですか、それで)
二人とも、過日にあったことを覚えていないんでしょうか?
ギルはともかく……ジークの方も。
ラファエルがそう思うのも無理はない。
だが実際、そこにはもう特筆すべき確執は存在していなかった。
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