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若頭補佐
「まったく無茶言うよなー。いくら幹部っていったって絶対文句言われるだろ」
車の中で面倒臭そうに呟いた真 志 喜 は、コツンと窓に頭をくっ付けた。
華奢に見える小さな体と、大きな瞳や色素の薄い髪。
その中性的で、23と成人しているにも関わらず童顔な彼には、まさに“美少年”という言葉が相応しい。
そんな真志喜であるから、その大分砕けた言動は周囲にかなりの違和感を与えていた。
今回身内の舎弟が他の組との軽い騒動を起こし、真志喜はその件で相手側と交渉をしに出向いている。
立場的にはこちらの方が不利である。
なんでもウチの組の人間から殴りかかったということだ。
問題を起こした舎弟分は敢えて連れて来なかった。
短気な人間が1人いるだけで、交渉は思ってもいない方向へ流れることがある。
「ここは俺が話すから、お前らは何も言わんでいいぞ」
前もって真志喜は、同行している舎弟2人に話していた。
しかし問題なのはこの場に組長も若頭もいないことだ。
「お前なら平気だろ?」と全部俺に丸投げしやがって、幹部と舎弟だけで交渉に行けなどと…。
先程真志喜がボヤいていたのは、このことについての愚痴なのだ。
到着した相手方の事務所前に車が止まる。
真志喜はガシガシと頭をかいた後、先程までの気怠そうな雰囲気を消し、スッと仕事の顔に切り替える。
そして愚痴をこぼしていたことなどなかったように、堂々とした様子で車から降りた。
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