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迅と本邸の廊下を歩いていれば、正嗣と彼方さんが何やら会話しているのが見えた。 彼方さん、また来ていたのか。 こんな所に頻繁に来るのは少し心配になるが、清さんに聞いたところ、何やら正嗣に相談事があって定期的にやって来ているらしい。 その相談内容までは聞かなかったが、清さんが敢えて触れなかったのだから安易なことではないのだろう。 真面目そうな彼方さんからして、わざわざ些細なことで正嗣に頼ろうとするとは思えないし。 まぁ彼方さんのことをそんなに知っているわけではないけど、なんとなく、勘ってやつだ。 仕事柄、人を見分ける能力には自信がある。 再度前方を見れば、ほわんと笑う彼方さんに、正嗣は見たこともないような優しい顔をしている。 その様子に、今回は本気なんだなと悟った。 なんだか2人で話しているその光景は、とても幸せなものに感じる。 俺には1番縁遠い光景。 それを望むことすら、俺には許されない。 「真志喜」 「っ」 不意に手を握られ、我に返った。 ボーッとしていたせいで気付かなかった。 横を見れば迅が少し悲しそうな笑みを浮かべている。 だからほんと、その顔はやめろと言っているのに…。 「あーやだやだ!イチャイチャしちゃってさぁ!」 その視線から逃れたくて、俺は握られた手を振り解き、正嗣たちに聞こえるような声を上げ歩き出した。

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