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帰る場所6

違う。こんなことが言いたいんじゃない。 こんなことを俺は迅に伝えたかったわけじゃないんだ。 俺は…、俺は…。 「…!」 その時、手を引き寄せられた。 反応するよりも早く、上体を起こした迅に抱き締められる。 「っ、な…にして…っ。おい迅、傷…っ」 「俺は、真志喜の言うことならなんでも受け止める」 「…ぇ?」 突然何を、と固まる真志喜を両腕で包み込んで、迅は言葉を続けた。 「真志喜のどんな罵倒だって、全部が愛おしく感じる。過去の話を聞いて欲しいなら聞くし、聞かせたくないなら聞かないよ。…でも」 迅の声が、僅かに掠れる。 瞠目する俺の耳元で、まるで縋るように迅は言った。 「お願いだから。あの日のことだけは否定しないで」 「…っ」 あの日。 生きる意味を失った俺は、何もない真っ暗な路地裏に捨てられた。 体が寒く、意識も朦朧として、「ああ、やっと死ねるのか」と広がる闇の中に身を委ねようとした。 『──どうしたの…?』 そんな時だった。 俺の目の前に、温かな光が灯ったのは。 虚な瞳で見上げれば、見知らぬ少年がそこにはいた。 光の宿るその瞳を、綺麗だと感じた。 あの瞬間、俺は… 心の底から、生きたいと思ったんだ。 「…っ、ぅ、あぁ…っ」 ボロボロと、止まらない涙が頬を伝っていく。 嗚咽を漏らす真志喜を、迅は黙って抱き締め続けた。 例え何度時間が巻き戻っても、俺はその手を掴んでいただろう。 あの出逢いは、偶然であり、必然だった。 顔を上げると目の前に迅の顔が広がる。 この世界で最も大切な人の顔が。 「……じ、んっ」 引き寄せられるように、求め合うように。 俺は迅と、唇を重ねた。

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