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帰る場所5
「おいで」
「……」
言われて俺は、病室に足を踏み入れた。
恐る恐る迅の側までやって来る。
チラリと目を向けると、微笑む迅と目が合った。
「真志喜、手」
促され、躊躇いながらそっとその手を握る。
暖かい。
迅の体温だ。
それだけで、迅が確かにここに存在していると身に染みて分かった。
「…っ」
実感した途端、一気に目頭が熱くなる。
言葉で表せないほどの感情が胸いっぱいに膨らんで、どうしようもなかった。
「……バカじゃ、ねぇの…」
気付けば、そう呟いていた。
はち切れそうな胸の痛みに、真志喜はくしゃりと顔を歪める。
あんな危険な真似をして、下手したら本当に死んでいたかもしれないのだ。
そう考えただけでもゾッとする。
怖くて怖くて堪らなくなる。
「お前が死にかけてたら、世話ねぇよ…っ」
なんだかもう、頭の中がゴチャゴチャだった。
迅が、俺の前から消える。
それが他のどんなことよりも恐ろしい。
俺が、迅を危険に晒してしまった。
俺は、きっと迅の負担になっている。
ずっとずっと、何処かでそれを感じていた。
もし、もしもあの時…、迅と俺が出逢わなかったら…。
「こんなことなら…っ。お前があの時、俺を拾わなきゃよかったんだ…!」
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